メーデーの今日、出張仕事帰りの私は『私はダニエル・ブレイク』を観てきた。あくまで私が観てきた範囲での感想だが、文句なしにケン・ローチ監督作品の中でベストの一作であろうと思う。

つくづくスゴいと思ったのは、映画中、もっといかにもな映画っぽく、もっと劇的に話を展開したり演出したりするチャンスはいくらでもあったにもかかわらず、それをしていないところだ。『ドイツ零年』のようにショックすぎて言葉を失うというような映画ではないにもかかわらず、それと同じような(同時代の問題としてある意味でいっそう深刻な)遣る瀬無さを残す。

上の予告編は目立つところをつまんでいるので劇的な映画っぽく見えなくもないが、100分間は基本的に静かに淡々と進む。ケン・ローチ監督作品は基本的にそういう作品が多いが、これまでの作品よりもさらに抑制的で、それだけに、少しずつ掠め取られていく尊厳が、不条理に対する静かで強い怒りが、わがこととして観ている側の中で鈍く反響を繰り返す。

帰り道、『イギリスにおける労働者階級の状態』を書いた時のエンゲルスも同じような気持ちだったのかもしれないと思ったりした。社会が人をみじめなものとする時、その社会は本当にみじめなものだ。そうなっていくと決まっているわけではないと信じたい。