[雑感003] Having a limited shelf life.

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夢のない話をひとつ。

ようやく研究室の可動式書架が完成した。昨年度、その部屋を使われていた先生による片付け作業が済んだ後、ヒビの入った壁の補修やら不要品の撤去、清掃作業をしてもらい、研究室を引越すダンドリが整った(もともとその部屋に入る予定で、それまでは一応、暫定ということで別の部屋を研究室としていた)。

前に部屋を使われていた先生は研究室に多量の本を置くタイプではなかったので、残してくれた小さい本棚では私の蔵書はとても収まらない。ここで、選択が発生する。一つは、不要品の書棚をどうにかこうにかかき集めて対処する道。しかし、書棚を拾えたとしても、大きさや材質や色に関して統一感のない書棚を並べるのは精神衛生的に良くないし、それで発生するであろうデッドスペースももったいない。そもそも複数の棚を置けるほど部屋は広くないのだ。。。

もう一つの選択は、新しく書架を入れる道。ただし自分の研究費でどうにかしなければならない。これは書架に限ったことではなく、研究室の全ての物品がつまりはそういうことなのだ。机やキャビネットはたまたま廃棄されていた不要品を再利用し(ずいぶん前からハイエナの如く目を付けていた)、テーブルは色や高さがちょっと合わないが元々あったもので我慢することにして、書架だけは新設することにした。あちこちに文献や資料を積み上げて前の部屋より不便になるくらいだったら、研究室を引越す意味がない。

書架を入れるに際して、固定一列の書架ではすぐに棚が一杯になってしまうことは予想できた。だが、単年度の予算では可動式書架には手が届かないということもすぐ分かった(科研費などはこういうことには使えない。当たり前と言えば当たり前だが…)。一度、固定一列の棚を入れてしまうと、そこから可動式を追加することは難しい。ぐぬぬ。

幸い、同僚に紹介してもらった業者は、謎の梁や配管等でウン十年前の設計者への呪詛の言葉が溢れて止まらないこの研究室でも、幅や高さを最大限活かしたモノをけっこう割り引いた価格で提示してくれた。加えて、「まず後列の4連の内3つと可動ベースを設置し、翌年度に後列の残りと可動の3連をつける」という二年度にまたがるプランを出してくれ、時間はかかったものの、なんとか希望通りの書架を設置することができた。しかし、二年間の、大学から配分される個人研究費のほとんど全てがそれに消えることとなった。その他の、自分の授業やゼミ、研究に必要な消耗品費や印刷費等は残りでやりくりしなければならないし、旅費など血を吐いても出やしない(それとて昨年度の科研費の間接経費の一部頼みという綱渡りぶり)。「可動する書架と引き換えに、私自身がだいぶ動けなくなった」という、笑いながらなぜか涙がこぼれる話をお届けした次第。

たまに「大学の先生はリッパな研究室があっていいですね!」とか「たくさん研究費もらってるんでしょう?」と言われることがあるが、他は知らないけども、地方国立大学の実態はこんなものである。某学部の先生の「不要になった備品置き場の山を漁りながら、『早く自分でイスと机を買って、人間扱いされたい!』と思ったものです」という語りが思い起こされる。実際私も、仮にいまクーラーが壊れたら…網戸が破れたら…、私もベムのような叫びをあげるかもしれない。割烹着を着たらどうにかしてくれるというなら正直いつでも着る。

念のために申し添えておけば、着任の際、準備費用として個人研究費は多めに配分された。ただ、それはPCと付属品を買えば消えてしまう程度の額(前の勤務先の半額以下)であり、あれもこれもとハシャげるものでは全然なかった。そうして考えてみると、これが初任で他に研究費を全くもらってなかったら、iMacなどという夢は見ずに、できるだけ安いPC、できるだけ安いプリンター、できるだけ安い…という選択を迫られていたに違いない(あるいは相当な自腹を切って色々整えるか)。無い袖は振れないので、そうなったらその範囲でやるしかないわけだが、機器は買えない(かショボい)、書架はない、本は買えない(図書館にも入らない)、そのジャーナルは購読してないから読めない、旅費もないから出張はガマンガマン、印刷費ももったいないから資料は配らんよ、あれクリップもないな……その状況で成果をあげろと言われても、気持ちよく働こうと言われてもツラいものがある。貧すれば鈍しちゃうよ、人間だもの。

しみったれた、これから研究者を目指す人の夢を壊すような話で恐縮だが、これが実態だ。国立大でも組織の規模や配分の仕組みの違いによる差はあるだろうが、国立大に(あるいは規模の大きくない私大に)公募に出すときは、ある程度そういう覚悟をしておいたほうが良いだろう。もちろん、それ以外の部分ではいろいろ満足するところも多いし、恵まれていると感じることも多いのだが。仕事の楽しさと研究(室)環境の充実はまた別の話。

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見よ、この充実のラインナップを!ということで暗い話を和らげておく(怒られそうだけど)。

Enjoy the pain if it’s inevitable.

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