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街に出たついでに『ウォール・ストリート』を観た。

タイトルが既に物語っているので当然と言えば当然だが,本当に味わうためには背景知識が要る哉,というのが観ての感想。それは金融や投資に関する知識だけでなく,前作『ウォール街』(1987)についての知識や,ここ10年のアメリカの世相についての知識というか皮膚感覚のようなものを含む。

少なくとも「空売りって何? 空き家を売ること?」なんて感じの人はこの映画をそもそも選ばないだろうが,その辺のことは一切知らなくても,なんか悪いことして刑務所にいたダイケル・マグラスが出所して,シャイア・ラブーフと絡んで,娘やお金をめぐってあーしてこーして,ぷんぷんぷん!みたいな話の大筋は楽しめる(ように作ってある)。

しかし,チャーリー・シーンが出てきて,あまり本筋とは関係ないように見えるやり取りをゲッコー氏とする理由とか,ウォーレン・バフェットが出演してることに気づける方がより楽しめるのは間違いない。さらに言えば,当時の住宅バブルを大なり小なり実感してきた人たちは,「20万ドルの住宅ローンを25万ドルに組み替えて,浮いた5万で買い物」的な話がどういう事態と価値判断に基づく行動を表しているのか,すぐに分かるのだろう(もっともこれは,バブル時代を経験した日本人が『バブルへGO!』を観て,「あった,あった」と懐かしがる程度のものかもしれないが)。

その皮膚感覚がないが故に,あー,日本では,サブプライム問題の余波が来た時,それとはあまり関係がなかったように思われる国内の不況要因もひっくるめて,「リーマン・ショックがね…」と皆が合い言葉のように口にして今に至るけど,アメリカの,この業界の人たちはそういう受け止め方だったのかーと知ることはできた。話の筋はそれほど複雑ではないので途中でオチは読めたが,展開は速過ぎず,遅過ぎず,3,4本のラインの絡ませ方は良かったと思う。

英語に関しては,専門用語は当然入ってくるものの,コンパクトなやり取りが多く,わりと聞き取りやすかった。ただ,飛び交う数字が大きいのでちょくちょく「ドル」だということを忘れそうになる。one hundred millionとかone billionとか盛んにやり取りされているのは,日本円で言えばさらに90ぐらいをかけた額なのだよなあ,と聞きながら考えてしまう(面倒だから×100で変換してたけど)。だから,不動産売買に手を出した母親が息子に「20万かしてくれ」とねだる時,それは約1800万円で,それに「分かったよ」って割とすぐ返事ができるのって所得に関係なくどーなの?って思うまでにややタイムラグがあって,やはり数字はいつまでたっても難しいなあとしみじみ思った次第。

オリバー・ストーン監督にはあまり思い入れがないので,それまでの作品と比べてどうのというのは措いて,この作品についてのみ言えば,象徴的な見せ方が多いなという印象。良い意味で。ニューヨークのビル群やロンドン・ブリッジを株価の推移に重ねてみたりするのに始まり,ゴヤの絵とか,途中途中の小物やちょっとした仕草に至るまで,金融業界や,物語上の出来事や登場人物の心情を象徴するかのような(特に説明はない)シーンが随所にあって,演出に込められた知性に感心した。

予告には出て来ないが,ジョシュ・ブローリン,スーザン・サランドン,フランク・ランジェラと脇役がなんとも豪華(フランク・ランジェラは『フロスト×ニクソン』の印象が強過ぎて,しばらく気づけなかったけど)。そういや,ジョシュ・ブローリンは同監督の『ブッシュ』もスゴかったものな。。。そして何より,キャリー・マリガンが良かった。彼女の存在と表情があるから,この映画が「成金野郎どもの殺伐とした話」にならず,オーディエンスがシャイア・ラブーフをかろうじて自分の側に引きつけて観れるのだ。

で,その彼女が3月日本公開の『私を離さないで』でキャシー役を演じている。

私が持っている印象よりカワイ過ぎだけど,とにかく楽しみだ。さて,毎日映画コンクールで賞を撮った『息もできない』を観るとするか。。。