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浦沢直樹は幾度となくマンガ好きをその世界にハマらせ喜ばせてきたが,どの作品も長く,マンガを読んだ経験の少ない人にとっては手が伸びにくいものになっているかもしれない。そこでオススメするのが,全8巻でまとめられた『PLUTO』だ(研究室マンガ喫茶には『MONSTER』もアリ〼)。

知の逆転』の中で,人工知能の父・マービン・ミンスキーが「ゲームやら人間のマネゴトのようなことをさせることばかりやっていて、原発や災害現場に入っていけるような,そこで作業できるようなロボットを作れていない現状が情けない」といったことを語っていた。われわれは今まさにそういうロボットを必要としており,ロボット研究の動向としてはそれも一理あるなあと読んでいたのだが,それでも私は,「人間らしさ」とは何かという問いをわれわれに突きつけ,人間社会の矛盾をえぐるようなロボットの話が好きだ。

私の中でその最たるものは手塚治虫『火の鳥』復活編や未来編のロビタだが,『PLUTO』に登場するロボットたち,特に主人公のゲジヒトとその妻,そしてブラウ1589などはそれと同質の哀しさを背負っている。『火の鳥』はある種突き放したような,淡々とした描き方・展開なので,それがかえって空恐ろしく冷たく哀しく響くのだが,浦沢直樹の作品は映画的で,情感と余韻を残すようにロボットたちの苦悩が描かれている。

原作は鉄腕アトムのエピソードの一つ「地上最大のロボット」。かつての紛争で平和維持軍として活躍したロボット・モンブランがバラバラに破壊された状態で見つかるところから物語は始まる。大量破壊兵器の調査にかかわった者たち,そしてモンブランと並ぶ知能と能力を持った「最強の」ロボットたちが次々巻き込まれ…という話。物語全体は,アメリカとイラクを想像させるような指導者が登場し,『火の鳥』未来編のマザーコンピューターのような存在がおほほほ的な謀略ががが…と,やや大味なきらいがないでもない。

ただ,本作の魅力は,事件を追う主人公ゲジヒトの「心」の動きにある。他のロボットたちの「人間らしさ」溢れるエピソードに触れ,事件の背後にある憎悪に触れ,自分の過去の「痛み」に触れ…。ゲジヒトは何度も突きつけられる。ロボット≒自分は「憎しみ」という感情を持ち得るか(あるいは持ったことがあるのか),ロボット≒自分は「憎しみ」にどう対峙するか…。本作の素晴らしいところは,アトムではなく,このゲジヒトを主人公にしたことに尽きると私は思う。

To be continued…