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学部生の時の授業で、Ken Loach監督My Name is Joe が紹介された。ちょうどシアター・キノで上映していた。当時お付き合いしていた女性と観に行ったが、けっしてデートで観るような映画ではなかった。救いようのない男の、ひたすら救いのない話だった。それが、私のケン・ローチ・デビュー。

その少し前に Trainspotting (ダニー・ボイル監督)が流行ったし、大好きなゲイリー・オールドマンが監督をした Nil by Mouth だって観たし、そういう映画は慣れているほうだと思っていた。しかし、ケン・ローチのこの辺の作品は、ただただ容赦がなく、胸にドス黒い気持ちを渦巻かせる何かがある。基本的に、家族という狭い単位で描かれることが多いからかもしれない(『麦の穂をゆらす風』はそうでもない。私が歴史に詳しくないだけということもあるが)。Sweet Sixteen は比較的見やすいほうだが、It’s a Free World… なども容赦がない。シングル・マザーが不法移民の派遣労働者斡旋業に手を出すまでと、その後の顛末が描かれ、観ていて辛くなること必死だ。ただ、何らかの「社会問題」やいわゆる労働者階級のことを描くなら、勧善懲悪の予定調和や変なお涙頂戴を一切排除した、こういう映画を私は好む。

そんなケン・ローチ作品の中にあって、そこまでディープな浸り方をせずに観れるオススメ作品が Ae fond kiss(『やさしくキスをして』, 2004年)だ。この「あらすじ」にある通り、

スコットランドのグラスゴー。カソリックの高校で音楽を教えるロシーン(エヴァ・バーシッスル)は、ある日教え子の兄でパキスタン移民二世のカシム(アッタ・ヤクブ)と知り合う。2人はすぐに深く愛し合うようになるが、厳格なイスラム教徒であるカシムの父親は異教徒との結婚を許さなかった。

という話。奇しくも2005年7月にロンドンの地下鉄・バスでテロ事件があった際、The Times には、パキスタン人とおぼしき地下鉄乗客と、彼と距離をとる他の客の姿を、ロンドンの地下鉄でお馴染みのMIND THE GAPという題で揶揄する風刺画が掲載された(Cf. 富山太佳夫『笑う大英帝国』)。本作でも、冒頭から言われなき差別に対する描写は容赦ないし、お互いの文化・宗教に対する無理解に心が痛くなる場面がないわけではない。ただ、(My Name is Joe でエゲつない演技をまだピュアだった私にこれでもかと見せつけたピーター・マランと違って)主演の二人の演技は清々しく、この映画にはちゃんと救いがある。

当時の、そして今のイギリス(スコットランド)にどういう問題があり、移民社会や異なる文化・宗教間の摩擦について何を考えなければならないのか、そういったことに目を向ける手がかりとして学生にもオススメできる一作だ。あるいは、こういう英語もあるんだよという側面でも。

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