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文法は間隔をとって教えたほうが効果的なのか、つめて教えたほうがいいのかという研究。Extensive vs. intensiveという対比で語られることもある。

概要は以下の通り。

指導や学習内容の振り返りは、連続したひとつのセッション中に与えられる(massed distribution)より間隔を空けて与えられる(spaced distribution)ほうが、情報がより長く保持されるということが記憶の研究によって示されている。間隔を空けることの効果は第二言語における語彙学習では実証されているが,文法学習に対しても間をおいた実践は有効なのかどうかを調べた研究は少ない。そこで、選ばれた文法項目の発達への間隔をおいて指導した場合と集中して指導した場合の影響に関して,事前・事後・遅延事後テストによる準実験研究を実施した。両実験グループともに事後テストでは全てのテストについて統計的に等しい学習効果が得られたが、遅延事後テストでは、間隔をおいて指導したグループのほうが、1つのテスト(誤り分析・訂正)に関して上回る結果となった。もう1つのテスト(英訳)の遅延事後テストの結果に関しては,どちらも他方を上回るということはなかった。しかし,両方のテストについて,事後テストから遅延事後テストで集中して指導したグループのほうがはるかに急激な得点の落ち込みが見られ,間をおいた指導で得られた学習効果のほうがより安定しているということが示唆された。

最後はやや盛った感があるものの概要の通りの論文で、論点や手続きは比較的丁寧に整理されているし、(間をおいた指導の効果を主張したいのは丸出しで、明らかに渋々ではあるが)出た結果から言えもしないことは言わず誠実な分析をしている(前回まとめた論文が残念だったので余計そう思うのかもしれないが)。

間隔の効果は、教員採用試験にも登場する「忘却曲線」でお馴染みのエビングハウス以来のトピックで、学習に関する様々な研究で実証されており、第二言語における語彙学習の分野ではたくさん研究があるようだ。Bahrick (1979)という研究では、間隔なし・1日おき・30日おきという3つのグループにスペイン語を学ぶ英語母語話者に英西50ペアの単語を勉強させたのだが、6回のテストについて、最初のテストは間隔なしのグループのほうが高い得点を示したが、後になるほど間隔をあけたグループのほうが得点は高くなったという(ただし、参加者が何人で、トリートメントやテストをどういうタイミングで実施したかについてはMiles (2014)には詳しい記載がない。6回目のテストを5回目のテストの30日後に実施したということは書かれているが…)。驚くのは、この研究の8年後に実施した研究で、(スペイン語を勉強し続けたりスペイン語圏に住んでいた者を除く)当時の参加者の75%をつかまえてテストしたところ、30日おきのグループは間隔なしのグループの2.5倍の成績だったという。いや、その前に8年間の積もる話をしようよ。。。

文法に関しては色んなやつが色んなことを言っており、結果も安定しないが、massed distributionのほうが効果的だと言うやつもいる。そもそも、語彙学習の研究にも言えることだが、どこまでをmassed distributionとみなし、どこまでをspaced distributionとみなすのかの定義が一定していないのだからこれは当然ともいえる。ある研究は5ヶ月間の400時間の指導をmassedと分類し、10ヶ月に渡るほうをspacedと分類している(そしてだいたいの項目において結果に違いはなかった)が、1日5時間毎日をmassedとみなす立場や8時間ぶっ続けのようなやり方をmassedとみなす立場からは、どちらもspacedに分類されるだろう。要するに、それぞれの研究で相対的にmassedかspacedかを区別して論じているに過ぎない。それでも、間隔効果に関する63の研究のメタ分析を行ったDonovan and Radosevich (1999)によれば、タスクが複雑になればなるほど効果量はより小さくなるとのこと。つまり、単語の暗記のような単純な課題ではspaced distributionが効果を発揮するが、問題解決や高次の判断を求められるようなタスクではその効果は薄い可能性がある。

ここでめげないのが本論の偉いところ。先行研究の問題として、やって直ぐの事後テストの結果ばかりに注目して、遅延事後テストを含めていないものが多いことを指摘。記憶の研究が間隔効果を指摘しているのは遅延事後の話なのだ。さらに間隔効果が言及しているのは、「特定の項目や技能の体系的再利用」だ。だから、なんとなくわーっとやったり、なんとなく間隔おいてタスクやった結果であーだこーだ言ったってお尻ペンペーン!というわけ。これは尤もな指摘だ。特定の文法項目習得の間隔効果を調べた研究は本当に少ないらしいが、韓国の中学生3グループに、4日間計画・4週間計画・8週間計画で二重目的語構文(いわゆる第4文型)を教えたYear (2009)は、誘導産出と容認性判断においてspaced distributionのほうが高い結果を示したという。

で、この研究では、韓国の大学生(20-23歳)45名を対象に、頻度の副詞と動詞の語順と、動詞句や決定詞句(いわゆる名詞句)でのalmostの用法(大学生レベルの韓国の学習者に間違いが多いらしい)について3つの条件(spaced (n = 16)/massed (n = 16)/control (n = 13))で指導し、

  1. 事後テストで比較した時、間隔をおいて指導した学習者は、2つの文法構造について集中して指導した学習者より優れた結果をもたらすだろうか。
  2. 5週間の遅延事後テストで比較した時、間隔をおいて指導した学習者は、2つの文法構造について集中して指導した学習者より優れた結果をもたらすだろうか。
  3. 集中して指導した場合と比べて、間隔をおいた指導は、事後テストから5週間の遅延事後テストでより衰えないような文法知識をもたらすかだろうか。

というRQsを調べた。

結果は概要の通りで、分散分析によって、20個の誤文訂正に関しては2.と3.に関して間隔をおいた指導の一定の効果が示されたが、著者が本当に示したかった(と思われる)19文の韓国語からの英訳ではいずれに有意な差は見られなかった。3.に関する”However, the Spaced Distribution Group saw a slight increase in gains which approached statistical significance (p = .14).”という記述にはちょっと困ったが、massedのほうが(有意な差ではないにせよ)事後テストのほうが得点が高く、さらに遅延事後ではspacedをごく僅かに下回った結果にもspacedの効果を叫ぶことなく、件のspacedが事後・遅延事後と得点を上昇させ続けた結果にも、「統制群と同じ幅の伸びに過ぎず、間隔をおいたことの効果というより(授業を通じた)全体的な改善とみなし得る」と分析しているところはまあ誠実だ。

「まあ、そういう結果になるでしょうな」と、やや残念に思ったのは、トリートメントの時間(当該の文法項目を指導した時間)が全体で65分しかないというところだ。著者が担当する15週の講義の中でやりくりしたであろう大人の事情の中では(副詞の語順やalmostにそんなに時間を割くわけにも行かないだろうし…)、厳密にデザインされているし、指導の10のステップも用いた教材やテストも細かく示されている。その意味で見習うべき研究だと思うのだが、いかんせん65分を9週目に一気にやる(massed)か、4週目に40分まで、5週目に次の10分をやり、9週目に残り15分をやる(spaced)かだけの違いでは、そしてそれぞれ16名というサンプルサイズでは期待した違いをもたらすのは難しいだろう。それでも両グループとも事前テストと比べれば得点は大きく延びているわけで、いずれにせよ65分の指導に効果はあったということなのだが(統制群の学生、涙目)。

そこでこの記事の序盤で述べた、何をもって(意味のある)massed/spacedとみなすのか問題に立ち戻るのだが、私個人の間隔としては、少なくとも単元レベル、つまり数時間のまとまった授業を単位として比べないとそれほど有り難みはないかなあと先ずは思ってしまう。つまり6〜9時間かけて現在完了を教える際、まとめて教えたほうがいいのか、1時間おきとか3時間おきとか、あるいは単元をまたぐような格好で間隔をおいて教えたほうがいいのかといった比較なら結果を今すぐにでも知りたい。もっと言えばカリキュラム編成レベルで問われるべき問題という気もする。しかしそこで次に考えるのは、それが研究として実施できるかどうかだ。このテーマで近い研究をやるとすれば、現実的には私もMiles (2014)と同じようなデザインでやることを選ぶようにも思う。

もう一つ、65分ではあるが、Miles (2014)で用いられた教材・指導法は、一部を切り離そうが離すまいが影響のない教え方だという点も気になる。もちろんMiles (2014)は記憶研究の成果の文法指導への適用ということで、だからこそ純粋にmassed/spacedの効果の比較が可能となっているわけだが、私としてはspacedにする価値のある文法項目・教材のあり方、massedにする価値のある文法項目・教材のあり方をもう少し詰めて考えたくなってしまう。そんな思考がいろいろ巡るという意味で私には興味深く読める文献であった。

Standing on the shoulders of giants … tremblingly.