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先日開催されたメソ犬(LET関西支部メソドロジー研究部会)2014年度第2回研究会に参加して、つらつら考えたこと。

『人間科学研究法ハンドブック【第2版】』の第一章5節「問題意識から研究課題へ」に、こんな一節がある。

知識とはすなわち記憶のなかに蓄積された情報であるが、そこには①意志的に集めた一連の論理的つながりをもった情報、②意志的に集めた個々バラバラな情報、③向こうから勝手に飛び込んできた情報、④明らかには意識されない情報、がある(中山, 1970)。課題がまだ明確に設定されていない段階では、①の形での情報収集は困難であろう。そこで②と③の形で情報を収集することが重要になる。そのためには読書が効果的であるが、この段階ではどのような情報が役に立つかはっきりとはわかっていない。そこでできるかぎりたくさんの文献にあたる必要がある。その場合、読み方は熟読よりも速読・多読が必要となる。最初はバラバラなままでいいから、とにかくたくさんの知識を頭に入れる(その方法に関しては本書第5章を参照)。それがある程度蓄積された時に、強い問題意識に誘導されて一気に「ナダレをうつよう」に相互につながりあう時が来るであろう。その時までとにかく貪欲に情報を頭に入れる(p. 5. 下線は引用者による)。

初めて研究に取り組む学生・院生、あるいはまだ「『ナダレをうつよう』に相互につながりあう時」が来た経験を持たない者が、本当にその時が来るのかどうか確信が持てず、どうやって「できるかぎりたくさんの文献」にあたったらいいかも分からなくて苦しむことが多いのは、まずこの部分ではないだろうか。先の見えないことに労力を注ぎこむのはつらいものだ。

「どうやって」のうち、一般的なアクセスの方法の部分を知るチャンスは今では少なくない。最近ではどの大学でも学生に対して図書館ガイダンス的な授業やイベントで検索法を説明しているし(実効性の程は今は問わない)、引用したこの文献(言及されている第5章)にも文献を探す目的や検索・入手方法が多く詳細に紹介されている。しかし「どうやって」の実際の部分、つまり多種多様なアクセスの方法の中でどの方法を用いて、どういう読み方をしたらよいのかについて、新人であれベテランであれ、各自の経験を共有して考える機会は意外と少ないのではないか。そう感じたのが先日のメソ犬だ。

「教えて!酒井英樹先生:研究法に関する悩み」の(酒井先生に訊く前段階の)グループ・ディスカッションで出された疑問が、「文献をどのように調べ、読んでいるか」というもの。正直なところ、私は発表直後のピロゥ・トーク状態だったのでディスカッションに対する集中具合がいまひとつだったのだが、「私のような未熟者だけでなく、第一線で活躍する研究者たちもそういうことを試行錯誤してるのか!」と感じ入った。そこにいた参加者から挙げられたのは、

  1. 読んだ文献の(気になる)参考文献を当たっていく芋づる方式
  2. 読んだ文献を引用している文献を当たっていくアフターケア方式
  3. 特定の著者の文献を一通り(片っ端から)当たっていく追っかけ方式
  4. 特定の学術誌の文献を一通り(片っ端から)当たっていくレーベル方式
  5. 自分の分野・トピックに関連する最新の文献をおさえるとれ立て方式

といったところ*a。当然、みんな複数のやり方を組み合わせている*bわけだが、私は1.と3.で育ち(3.のほうがわりと好み)、学術誌の性格・編集方針なるものがあることをしって4.について考え出したのは就職してからで、電ジャやSNSのおかげでかろうじて5.ができているといったところか。なので、2.はもちろんあちこちで出会うけれども、意識してそれを辿るというのは面白いなと感じた次第。

こういうことがある(し、生き残ったオトナたちは共通して「あの頃はあんなに読む時間があったのに!」という感覚を持つらしい)ので、上の文献のように「できるかぎりたくさんの文献」にあたることを求める気持ちは分からないではない。しかし「できるかぎりたくさん」の幅は個人差が大きく、分野やトピックにもよるだろうから、どの程度であれば「たくさん」と言え、自分の問題意識に役立つように「相互につながりあう」のか、そこが見えず心折れてしまう学生・院生・研究者は案外多いのではないか。そもそも一般化した形で説明するのは難しいことは承知で、自分自身は納得して試行錯誤をするのだけれども、学生・院生指導ということで言えば、How to write a lotのようにHow to read enoughがないものかな、書けないものかなあと思うのであった*c。

その契機として、今回のメソ犬の企画のような機会は良いかも知れない。

 

*a ちなみにメタ分析は、

6.  定義に合致する研究母集団の全てを網羅し、一定の基準で絞り込む修羅方式

なので、「どうやって」の悩みは少ないが、レベル99完全クリア的な読み方を覚悟しなければならない。

*b …し、全部を全部、生真面目に読んでいるわけでもない。初めて研究に取り組む学生・院生は、大学教員の部屋にある本の数や手にした論文の参考文献の数に圧倒されたりするものだが、そもそも、目的によって文献の読み方にもいろいろあるのだということを知れば、王様を裸にしたも同然…と思うかどうかは人によるが、目指すところが多少近く感じられるのではないだろうか(あとは、every journey begins with a single step.としか言えない)。これを経験的に悟るのがよいのか、『本を読む本』などを読んで知るのがよいのかは分からない。両方か。

*c The pocket guide to critical appraisal(『医療専門職のための研究論文の読み方: 批判的吟味がわかるポケットガイド』)あたりが現時点での最適解なのかもしれませんが、もうちょい分野特定的で実用的なのがあると嬉しいっス。