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成績報告などの作業は残っているものの、前期の授業が終わりました。4月からまったく新しい授業・ゼミとなったので競輪選手を超える速度での自転車操業でした。同僚の先生方や学生たちに助けられて何とかなった次第です。

前期に担当した授業の一つが「英語教育リサーチメソッド」です。授業の目標を、

教室で学ぶ中・高・大学生の外国語能力はどの程度なのか、外国語学習の何が難しいのか、授業で試みたことがどの程度効果があったのかといったことを客観的に調査・評価する手法を学びます。授業実践を振り返り改善していくためには、「楽しかった」だけではなく、その授業を受けることで学習者の知識・技能がどう変化しているかを知る必要があります。必要に応じて適切な方法を選べるよう、試行錯誤を厭わず主体的に作業に取り組み、各分析手法を自分のものとしてください。

などと偉そうに述べて、15回を以下のように構成しました。毎回のように作業・課題があり、4回の発表があり、その上最終レポートまで求められるという鬼のような授業でしたが、私自身が驚いたことに学生たちはくらいついて優れたパフォーマンスを見せてくれました。

  • 調査・研究に必要な概念を概観し,データの収集法・処理法の理解を深める。
    • 第1回:リサーチとは何か
    • 第2回:研究課題の明確化
    • 第3回:記述統計と推測統計
    • 第4回:統計的仮説検定の考え方
    • 第5回:データ収集の尺度とコード化
  • データを実際に収集・分析しながら各手法の考え方と技法を学ぶ。
    • 第6回:観察調査(1)
    • 第7回:観察調査(2)
    • 第8回:質的研究の計画・実施・分析(1)
    • 第9回:質的研究の計画・実施・分析(2)
    • 第10回:量的研究の計画・実施・分析(1)
    • 第11回:量的研究の計画・実施・分析(2)
  • 具体的に研究課題を立て、模擬的アクション・リサーチ*1を実施する。
    • 第12回:アクション・リサーチ(1)
    • 第13回:アクション・リサーチ(2)
    • 第14回:アクション・リサーチ(3)
    • 第15回:研究報告のまとめ

*1 概念や手法については三上(2010)等を一通り紹介しましたが、計画・実施・分析については、教育実習等の経験に基づいて研究課題を立て、これまでに学んできた調査・分析手法を実際に使って「仮説設定」までをまとめて報告するという形で実施した。

テキストは指定せず、各回の授業の内容構成・配布資料作成にあたっては主に以下の文献のお力を借りました([1]-[4]は初回に参考文献として紹介。竹内・水本編(2012)はまだ出版されてなかった)。前半は主にセリガー&ショハミー(2001)と三浦(2004)、山田・村井(2004)、後半は主にMackey and Gass (eds.) (2012)と竹内・水本編(2012)で、特に(出版されて間もないにもかかわらず)竹内・水本編(2012)にはお世話になりまくりました。来年度はテキストにするかもしれません。

  • [1] Mackey, A. and Gass, S. M. (2005). Second Language Research: Methodology and design. Mahwah, NJ: Lawrence Erlbaum.
  • Mackey, A. and Gass, S. M. (eds.). (2012). Research Methods in Second Language Acquisition: A practical guide. Chichester, West Sussex, UK: Wiley-Blackwell.
  • [2] 三浦省五監修、前田啓朗ほか(2004)『英語教師のための教育データ分析入門:授業が変わるテスト・評価・研究』大修館書店
  • [3] ハーバート・W・セリガー&イラーナ・ショハミー著、土屋武久ほか訳(2001)『外国語教育リサーチマニュアル』大修館書店
  • 竹内理・水本篤編(2012)『外国語教育研究ハンドブック』松柏社
  • [4] 山田剛史・村井潤一郎(2004)『よくわかる心理統計』ミネルヴァ書房

最終レポートは次の3つから選んで取り組んでもらいました(選択式にするのは私の好み。いろいろ意図はありますが、ご想像にお任せします)。

  1. 研究課題を設定し、初回アンケートかアクションリサーチで収集したデータを用いて再分析する(授業で紹介した分析手法を必ず使用すること)。
  2. Study boxで取り上げた論文のいずれかを直接参照し、概要をまとめて論評する。
  3. 授業で紹介した各研究手法について、参考文献を参照しながら利点と限界を検討する。

上掲のMackey & Gass (eds.)(2012)には、各章で詳述している調査・分析手法を用いた例として、Study Boxと題するジャーナル論文のまとめが掲載されています。第6回以降、観察調査・質的研究・量的研究・アクションリサーチについて、学生の発表の後にこのStudy Boxから選んだ論文を一つ取り上げて紹介していました。2.はその原典に当たって論評せよという課題です。以前から同僚の先生と「4年生になる前にきちんとした論文を読む経験をしておいてほしい」という話をしていたので、文献の検索・入手も含めて、チャレンジしてみてくれればと考えました。

授業中に紹介したStudy Boxの論文は以下の4つでした。内容とMackey & Gass (eds.)(2012)での切り取られ方が選択のポイントですが、学内の電子ジャーナルでアクセス可能な雑誌であることも一つの要因でした。

  • [A] DaSilva Iddings, A. C. & Jang, E-Y. (2008). “The meditational role of classroom practice during the silent period: A new-immigrant student learning the English language in a mainstream classroom.” TESOL Quarterly 42(4): 567-590.
  • [B] Gan, Z., Humphreys, G., & Hamp-Lyons, L. (2004). “Understanding successful and unsuccessful EFL students in Chinese universities.” Modern Language Journal 88(2): 229-244.
  • [C] Jalilifar, A. (2009). “The effect of cooperative learning techniques on college students’ reading comprehension.” System 38(1): 96-108.
  • [D] Kormos, J. & Csizér, K. (2008). “Age-related differences in the motivation of learning English as a foreign language: Attitudes, selves and motivated learning behavior.” Language Learning 58: 327-355.

私が暗に勧めたのもあって2.を選ぶ学生が一番多かったのですが、意外だったのは論文の選択です。諸事情で2つ以上まとめて提出した学生もいるので合計は受講人数を超えますが、[A]が2人、[B]が8人、[C]が7人、[D]が10人でした。特にKormos and Csizér (2008)は学生も興味を持って目を通したようで、どういうテーマにどういう風に関心を持つのかが垣間見えたのは私にとっても大きな収穫でした。

竹内・水本編(2012)をテキストとした場合、来年度の構成はだいぶ変わるかもしれませんが、今年度の学生たちのガンバリに味を占めて、「ジャーナルの論文に触れてもらってヒイヒイ言わせる」という課題は継続して仕掛けたいと思っています。