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専門的な文献ではなく、特に学生・院生・教師のみなさんに、読み物としてオススメするもの。

  1. 板倉聖宣 (1986).『歴史の見方考え方』仮説社.
  2. 板倉聖宣 (1992).『新哲学入門』仮説社.
  3. 板倉聖宣 (1996).『近現代史の考え方:正義でなく真理を教えるために』仮説社.

学生時代から板倉さんの本を多く読んできた。自然科学教育(敢えて理科教育とは言わない)の分野で板倉聖宣(きよのぶ)の名を知らない人はいないだろうが、英語教育界隈ではそうでもないだろう。仮説実験授業の提唱者として多くの「授業書」を開発し、戦後の自然科学教育の内容・方法を豊かにしてきた人物だが、著述家としても多くの本を世に送り、質の高い内容を分かりやすく伝えることに長けた人物である。

上掲の3冊は、仮説実験授業の理論的な文献や授業記録以外で、私がお薦めする3冊。いずれも、仮説実験授業について知らない人も読めるように書かれている。ここでは、

  • 板倉聖宣 (1986).『歴史の見方考え方』仮説社.

だけを簡潔に紹介する。

本書は、統計資料をもとに日本の歴史、特に江戸時代から明治維新頃までを考察したもの。教育方法学を学ぶ人間にとっては、社会科学の分野においても、仮説実験授業のような客観的な事実を伝え得るということが示された記念碑的著作と言える。単純に読み物としても、我々が小、中、高と学んできた「常識」がことごとく崩されるのが小気味よい。

そしてそれは、従来の歴史学者が描いてきたような情緒的・物語的な歴史観ではなく、信用できる統計に基づく「事実」として展開されているという点が重要である。歴史教育は全く専門ではないが、歴史に対する「見方・考え方」を学校で教わる機会はなかなか得がたい。しかし年号や人名のような要素的知識(というよりは断片的な情報)よりも遥かに重要なのはその見方・考え方であり、要素的知識はそれを支えるものであって初めて豊富である意義があるものだろう。たとえ歴史、日本史に興味が無くても、本書を読めば、そこらに転がる自己啓発書の何十倍もマシな充実感が得られるはずだ。

本書は「江戸時代の農民は何を食べていたか?」と「人口の変化を手がかりにして歴史を見る」の二部構成から成るが、学生時代に貪るように本書を読んだ私は目からウロコガ落ちる思いだった。

〔問題1〕江戸時代の農民の主なエネルギー源(カロリー源)となっていたのは、次のうち何が一番多かったと思いますか。

  • 予想
    • ア.米。
    • イ.麦——大麦・裸麦・小麦の合計(うどんやまんじゅうの主原料は小麦です)。
    • ウ.雑穀——あわ・ひえ・そば・もろこし・豆類など、米と麦以外の穀物類の総計。
    • エ.いも・大根、その他の野菜・山菜・木の実など(p. 21)。

自分がそう答える根拠も合わせて答えることができるだろうか。迷わずウと答えた人、根拠のある正解を知りたい人は先ず読むべし。…などと強く押さなくとも、冒頭の数ページを読めば読みたくなると思う。

余談だが、草稿を読む機会をもらった、

を読んだときのインパクトは、、友人だからお世辞を言うというわけではなくて、やり手にヨイショしてたかろうとしているわけでもなくて、この『歴史の見方考え方』に近いものがあった(もちろん、研究としてこちらのほうがもっと緻密で丁寧)。本書についても、近いうちに紹介できたらと思う。

これは本当に本当の余談だが、3.には藤岡信勝氏(「新しい歴史教科書をつくる会」云々以前に、授業書案「日本語と英語のこ・そ・あ・ど」を作成するなど仮説と深い関わりにあった)と板倉さんの確執のような事態についても書かれているので、その辺の問題を考察する上でも興味深い(というか、併せて出身研究室の話が出てくるので、この辺はゴシップ的関心だが)。

Let there be light reading.