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以前、こちらの記事でMacaro and Lee (2013)をレビューしました。「英語教育」2014年9月号の江利川・久保田(2014)で引用されている研究です(この記事については江利川先生自身による紹介を参照。オンラインで最初に公開されたのが2012年であるためか記事中では2012として引用されていますが、TQ47(4)は2013年12月の発行です)。同記事では、以下の論文にも言及があります。

Macaro and Lee (2013)と併せて読んではいたのですが、語彙学習に焦点を当てていて私の関心とはややズレるので、まとめてはいませんでした。当該記事を読んだ際に再読しましたので、ツイッターでつぶやいた内容の繰り返しになりますが、ここにまとめておきます。

タイトルの通り、外国語として英語を学ぶ韓国語話者に対する語彙指導の効果を、英語のみでの指導とコード・スイッチングを用いた(韓国語と英語を併用した)指導とで比べたもので、さらに小学校6年生と大学生という年齢の違いで結果に差があるかどうかを調べようとしたものです。これまでの論稿で推測する限り、著者たちは特に語彙の指導(というより語義の説明に)L1使用の効果を認めているので、そこにフォーカスしたのでしょう。

事前テストに始まる9週間の実験期間の中で、英語のみで教えたグループとコードスイッチングを用いて教えたグループに対する授業の時間は、各クラス約30名の6年生(最終的に)443名でそれぞれに対し40分×2、同じく各クラス約30名の大学生286名でそれぞれに対し50分×2とそれほど長い時間ではありません。しかしながら、単語の意味を思い出して書くテストと意味が分かるかどうかを多肢選択で選ぶテストの結果を見る限りにおいてですが、「英語だけの指導より母語とのコードスイッチングを取り入れた指導法の方が効果的だった」(江利川・久保田, 2014, p. 71)ということは言えそうです。単語の意味を思い出して書くテストは、全く分からなかったら1にマル、見たことはあるが意味が分からない場合は2にマル、分かる場合は3にマルをして、英語もしくは韓国語で意味を記述するというもの。意味が分かるかどうかを多肢選択で選ぶテストは、与えられた英語句の意味を最もよく表す説明を選ぶもので、英語の4択問題と韓国語の4択問題からなる(得点は、言語を問わず正解にのみ1ポイントを付与し、複数答えたものも含めそれ以外は0ポイント。なので「コードスイッチンググループは、韓国語で意味を答える問題での結果が良かっただけじゃないの?」というツッコミは当然あり得ます)。

ただし、両グループの差が大きかったのは、各授業の最後の部分で実施されたテスト(immediate post tests)の結果であって、授業の3週間後に実施されたテスト(delayed post tests)ではそれほどでもないということに注意する必要があります。それでも6年生のほうは遅延事後テストでもコードスイッチング・グループのほうが有意に高い得点をあげているので、江利川・久保田(2014)の説明は妥当と言えるでしょう。大学生では3週間後に関してはグループ間に有意な差は見られなかったので、さしあたりの「授業は英語で」の議論の対象である高校生はどちらの結果を参照すべきかは判断の難しいところです(もとより国、というよりは教育課程・内容等が違うので単純な比較はできません)が…。

それでも、この話題に関して非常に参考になる研究です*1。これまでの著者たちの研究、例えばイギリスでのフランス語指導の研究では目標言語の高い使用割合(授業中の教師の発言に占める割合で約8割以上)が前提となっていたので、たとえ授業でのL1の使用に効果があるとしても(このこと自体を否定する人は少ないと思いますが)、ほとんどの場合、日本の教室についての議論には適用できないというツラさがありました。Lee and Macaro (2013)の授業とて、コードスイッチング条件でも韓国語の使用は限定的で、授業時間の全てにおいて語彙の説明をしていたわけではありません。それでも、われわれが参考にし得る実証的な成果を提供してくれるという意味で状況を少し前に進めてくれた研究かなと思います。「授業は英語で」の問題をを論じる際は、こういった研究がもっと蓄積されてこのレベルで議論が進めばいいなと思います(この問題全体に対する私の見解はこちらで述べた通りです。)。

ちなみに、Lee and Macaro (2013)は効果量として偏イータ二乗(partial eta square)を用いています。分散分析の場合これは特に変わったことではありませんが(水本(編), 2012, pp. 80-81)、各テストについて記述統計がきちんと報告されていますので、サンプルサイズ・平均値・標準偏差を用いて、コードスイッチング・グループと英語のみグループの差の効果量を算出することができます (そう langtest.jp ならあっという間にね)。

ツイッターでは全てのテストを一度に入力して算出しましたが、事後テストと遅延事後テストを分けて算出してみました。

事後テストでは、6年生(Young)に対する指導の効果量はg = 0.82(95% CI [0.68, 0.96])、大学生(Adult)に対する指導の効果量はg = 0.37(95% CI [0.21, 0.54])となります(ランダム効果モデル)。全体ではg = 0.64(95% CI [0.53, 0.74])です(図だって langtest.jp なら右クリックで保存するだけ!) 。

ES_LeeMacaro_post_Forest

Figure 1. 事後テストのフォレスト・プロット (上段2つが6年生、下段2つが大学生)

ES_LeeMacaro_post_categorical

Figure 2. 事後テストのcategorical moderator graph

他方、遅延事後テストでは、6年生(Young)に対する指導の効果量はg = 0.47(95% CI [0.24, 0.70])、大学生(Adult)に対する指導の効果量はg = 0.04(95% CI [-0.20, 0.29])となります。全体ではg = 0.27(95% CI [0.10, 0.44])です。 特に大学生では、コードスイッチングに効果があるとは言い切れなくなりますね。

ES_LeeMacaro_delayed_Forest

Figure 3. 遅延事後テストのフォレスト・プロット

ES_LeeMacaro_delayed_categorical

Figure 4. 遅延事後テストのcategorical moderator graph

*1 ただし、Lee and Macaro (2013)の後半およびMacaro and Lee (2013)の質問紙調査は——Macaro and Lee (2013)のレビューの際、そういうあからさまな書き方はしませんでしたが——文言がかなり誘導的なので参照するのは問題が多いと思います。「回答者は(6年生のほうは特に)英語ばかりの授業は好んでいないようだ」という結果を読みとることはできなくはありませんが、使用言語よりも教え方の巧拙ほうがより強い規定要因で、教え方がヘタな場合、英語のみだと被害がより甚大になるといった解釈が妥当なところでしょう。

ということで、「学習者がちゃんと分かるようなやり方で英語で教えられることが重要なのだ」というある意味分かりきった結論が導かれるわけです。

Standing on the shoulders of giants … tremblingly.