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[雑感120] belongのこと

[雑感120] belongのこと

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こちらの連載記事でTaylow Swiftの”You Belong With Me.”を取り上げた。

  • 亘理 陽一 (2023).「リクツで納得!学校英文法の『文法』11: この際、お互いの関係をハッキリさせましょう」『TEN50, 6.

belongという動詞は、ご承知の通り中学校の英語の授業では”belong to …”という形で登場し、「…に所属している」という意味だと教えられる(そして所属している部活やクラブを自己紹介で言うたびに使う)ことが多いので、belong “with”というのは珍しく響く。このタイトルは、「あなたが属しているのは私と一緒のグループ」、つまり「あなたがいるべきはこちら(私)側でしょ」と訴えているわけだ。もし分断を煽るような解釈に違和感が残るようなら、「あなたに相応しいのは私(と一緒にいること)」としてもよい。上の記事で言及した”I’m the one who understands you.”とも馴染むことがわかるだろう。

上記連載で語法について扱うつもりはないのだが、belongの扱いについて、”belong to …”という形式にこだわるばかりで、意味は「所属する」のみで片付けられることがかねてより気になっていた。参加している部活やクラブを紹介したいだけなら、”I’m a member of …”でも事は足りるのであって、無理にbelongを使う必要もない。その後に実際の文脈で出会うbelongについて言えばむしろ、たとえば『Longman現代英英辞典』で言うところの(1) “if something belongs somewhere, that is the right place or situation for it“、そして(2) “if you feel you belong in a place or situation, you feel happy and comfortable in it, because you have the same interests and ideas as other people”という意味のほうがよっぽど重要に思える(太字・下線は引用者による)。Belong to …にしても、同辞典の例文を借りれば”The book belongs to Dan.”(この本はダンのものだ)といった例に「所属する」を当てはめたとしても、かえって意味が分かりにくくなるだけではないだろうか?

上記のbelongの語感を味わうためにも洋楽をオススメしたい。

たとえば、私の前後の近い世代の多くが中学・高校、大学生の頃に自らを捧げたRadioheadのCreepを聴くとよい。

仮にあなたがZ世代の若者だとして、初期Radioheadのようなオルタナティブ・ロックがどう響くのか分からないが、自分がサッカー部や(Taylorの曲のMVで描かれる)アメフト部の毎日がキラキラしたスターではなく、変なやつだと思われたらどうしようとか、どうせ私なんて気味の悪いやつと思われるのがオチだし、と肥大した自意識でぐるぐるしがちな思春期に少しでも重ねる部分があれば、この曲が描いている情景、そして上記(1)の意味で最後に残す”I don’t belong here.”の切なさが分かるだろう。これを「私はここに(所)属していない」としか解釈できないまま終わるのだったら、およそ英語教育は無意味だ。

(2)の意味を伝えてくれる一曲と言えば、Tracy ChapmanのFast Carである。原曲がもちろん良いのだが、Luke Combsというアーティストが最近出したアルバムの中でカバーしているので、そちらを紹介しておこう。

1988年の曲を当時小学生の私が味わっていたわけではもちろんなくて、後に矢井田瞳さんのカバーを通じて知ったのだが、繰り返される”You got a fast car.”というフレーズが、最初は2人が今の現実から脱出するための展望・希望の象徴だったはずが、次第に意味を変え、最後には相手がもたれかかる現実逃避の手段になるところにこの曲のスゴさがある。ぜひ歌詞をじっくり味わって、JourneyのDon’t Stop Believin’の裏側のペーソス(この曲もこの曲で、打ち破れた者たちの哀れみは漂っているわけだが)というか、アメリカにおける抗いがたい社会の現実の描かれ方を、今に照らしながら味わうとよい。

それでもこのfast carは、サビの中では、煌びやかな都会の灯りと併せて、恋人との良かった時の記憶として刻まれている(それが余計に切ない)。自分の肩を抱く恋人の腕の温もりと共に、”And I had a feeling that I belonged.”である。どうか、これを「私が所属していた感覚」なんて言わないでほしい。この車は生まれた土地のくびきから逃れられそうなくらい速くて、機嫌の良い恋人は優しくって、居心地が良かった。そう、今の自分とは別の誰かになれたと思えるような、居心地の良さを見出しているからbelongなのだ。

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どうだろう、同じキュレーションをChatGPTに依頼するとしても、ここまで熱量のある出力はまだ返してくれないはずだ。何でもかんでもここまでの思い入れを持てと言うつもりはないにせよ、私にとって問題は、belongを歌詞に含む曲を挙げてもらったりこの単語を含む英文を書いてもらったりしたところで、こうしたメッセージや思い入れなしに、あるいはことばに対するそういうなにがしかのこだわりを持たない言語教師から、学習者がいったい何を学ぶというのかということだ。英語教育界隈の諸兄におかれては、ChatGPTのようなツールの使いどころを見極めて教育・学習に活用していくのは必然としても、そこのところをよくよく考えて、ことばの味と重みを見失わずにいてほしいものだ。

と、こういう話をダラダラ語る英語教育ラジオ番組をやってもいいなと思うものの、私はやっぱり書いて伝えるほうが好きだ。This is where I belong.

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