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前の記事の最後で触れた「サブスキル」(sub-skills)は、新学習指導要領・外国語編で最も弱いところだと考えている。

昨年の某研修で話した内容をもとに、数研出版の「CHART NETWORK」に

  • 亘理 陽一 (印刷中).「共通テストを見据えたリスニングの指導方法: Before/While/After Listeningのサブスキルの豊富化」『CHART NETWORK』91.

という記事を書いたので(「共通テスト」は編集部の依頼。5月刊行)、ここではスピーキングを例にサブスキルについて考えたい。スピーキングの技能とは一体何で、それを教えるとはいったいどういうことなのか。

YING

やあやあ、今日はどういう話ですか。

YANG

YINGさんは、スピーキングは得意ですか?

藪から棒ですね。やり取りは嫌いじゃないです。

YANGさんとの対話編でパートナーを務めるのは決して楽じゃないよ、ということは言っておきたいですが。

書き言葉なので、かえって言葉遣いに苦慮しますよね。

私は基本的にはニガテです。

あんなにいっぱい喋れるのにですか?

例えばRichards (2015)は、話し言葉のやり取り(spoken interaction)のジャンルとして以下を挙げています(p. 408)。

– small talk

– casual conversations

– telephone conversations

– transactions

– discussions

– interviews

– meetings

– presentations

– debates

ディスカッションやプレゼンテーションはこなせる方だと思いますが、先の読めないsmall talkやcasual conversationsは得意ではありません。

たしかに、YANGさんがオチのない話をしているのは見たことがないですね。

私は逆に、small talkやconversationsは好きだけど、discussionやdebatesには苦手意識があります。

今日お話したいのは、「スピーキング」や「話すこと」と一口に言っても、各ジャンルで身につけることが必要な「技能」は異なるということです。

つまりサブスキルの話ですね。

なるほど、私はdiscussionやdebatesのサブスキルを鍛える必要があって、YANGさんはsmall talkやconversationsのサブスキルを必要としているんですね。

そうなりますね。

引き続きRichards (2015)に拠りますが、たとえばsmall talkの習熟には次のサブスキルが関わってきます(p. 409)。

  • small talkで用いられる定型表現と慣習的手順の獲得
  • 状況に応じたフォーマルとカジュアルの使い分け
  • 予測がつく話題のsmall talkでの流暢さを高めること
  • 切り出しと結びの方略の活用
  • 相づち表現の活用

相づち表現についてRichards (2015)は、really, mm, Is that right?, yeahなどの表現の他に、うなずきやDo you?, Are you?, Did you?のような修辞疑問も挙げていますね。あと、エコー応答も。

エコー応答も、です。とエコー応答を使ってみるわけですが、能動的・協力的な聞き手の役割を果たすためには、こうした言動が欠かせません。

思えばYINGさんは、私の言うことにいつもそういう相づちをくれますね。

Fantastic!

なんて私が大袈裟な表現を返せば、YANGさんとの親しさを示すことにもなるわけですね。

一方、discussionsで必要となるのは次のような技能です(Richards, 2015, p. 422)。

  • 意見を述べる
  • 見解を提示・後押しする
  • ターンを交代・保持する
  • 他者の意見を聞く
  • 意見に同意する・意義を唱える
  • 立場をまとめる

Small talkとは全然求められるものが違いますね。

私はYANGさんの意見を聞いて同意したりするのは得意ですが、自分から意見を述べるのが得意ではないということがわかりました。

われわれの設定上そうですね。

こうした内容は、一見すると、学習指導要領では「言語の働き(の例)」として記述されています。

しかし、上記のようなジャンルとの対応が不明で、(昔からですが)羅列の印象を免れません。

たしかに。いまYANGさんが挙げたdiscussionのサブスキルに対応するのは、

–  (エ) 考えや意図を伝える

かな?

– (ア)コミュニケーションを円滑にする

はsmall talkのサブスキルと重なりそうですね。

そもそも「話すこと」([やり取り]であれ[発表]であれ)の目標とそれに対応する言語活動が、具体的にどのジャンルと対応するのか不明なんです。

学習指導要領解説を読む限り、

– (ア) 関心のある事柄について、相手からの質問に対し、その場で適切に応答したり、関連する質問をしたりして、互いに会話を継続する活動

がsmall talkに該当すると言えそうですが、「社会的な話題」に関わる(ウ)がただちにdiscussionsとみなせるかと言うとそうではない(p. 61)。

小中学生がsmall talk以外、常にdiscussionやdebatesしているとしたら、変な話というか、異様ですもんね。

それができたとしても、conversationsはどこ行った、となってしまう。

そう、そして「話すこと」をめぐる現行および次期学習指導要領の最大の問題点は、small talkや会話(conversations)と、トランザクション(transactions)を区別していないことです。

トランザクション?

あ、たしかに最初のジャンルの分類にありますね。

Richards (2015)の説明を借りれば、社会的交流にではなく、事をなすことにフォーカスのあるやり取りです(p. 417)。

レストランで食事を注文したり、ホテルでチェックインしたり、図書館で本を借りたりする際のコミュニケーションが典型的なトランザクションです。

いわゆるtaskの分かりやすいやつですね。

この辺のことがtask-based language teaching (TBLT)の文献でどのくらい論じられているか分かりませんが、大括りな技能ごとのtaskを語るばかりではなく、ジャンルやサブスキルとの関連をもっと丁寧に整理して欲しいですね。

“MP2: Promote learning by doing” (Long, 2009, p. 386)と言ったって、「なすべきこと」はそれぞれで違うんですから。

  • Long, M. H. (2009). Methodological principles for language teaching. In M. H. Long, & C. J. Doughty (Eds.), The handbook of language teaching (pp. 373–394). Wiley-Blackwell.

TBLTerに対する煽りですね。

です。話を戻しましょう。

学習指導要領が上記の区別をできていないことがわかるのは、たとえば「小学校学習指導要領解説 外国語活動・外国語編」の「(ア)コミュニケーションを円滑にする」に「挨拶をする」が入っているあたりです。

「挨拶」はコミュニケーションを円滑にしませんか?

結果としてするかもしれませんが、それなら「(イ)気持ちを伝える」に挙げられている「褒める」や「歓迎する」だって、功を奏せばコミュニケーションを円滑にするでしょう。

上述の分かりやすいtaskと比べればやや抽象度は増しますが、「新しく来た上司に挨拶をする」とか「結婚相手の親族に挨拶をする」となれば、立派な(結構難易度高めの)taskでは?

学校で分かりやすい状況で考えれば、「上司」を「ALT」に置き換えても構いません。

なるほど、「挨拶(を)する」という言語行為と、会話の切り出し・維持・結びに関わる方略が区別されていないということですね。

その通りです。

そうして学習指導要領の「言語の働き」を見直してみると、「(イ)気持ちを伝える」や「(エ)考えや意図を伝える」、「(オ)相手の行動を促す」に挙げられている言語行為の大半はトランザクションで必要とされるものであることがわかります。

誰かに「依頼する」とか誰かを「招待する」というのがまさにその、なす「事」にあたりますもんね。

で、丁寧に依頼する必要がある場面で、命令文しか使えないというのでは困るわけです。

財布を忘れた時に、相当親しい相手でも「金貸せ」とは言わないでしょう。場合によっては恐喝になってしまいます。

遠回しな依頼表現を用いたり、事情を説明したり返金の条件を添えたり、相手の手持ち的に大丈夫かを尋ねたりするためのサブスキルが必要になります(Richards, 2015, p. 419)。

招待する時は招待する時で、日時や場所を繰り返したり確認したりしますもんね。

トランザクションにはトランザクションのスキルがある、と。

そうなんです。

会話は会話で、話題を切り出したり、適切な応答を返したり、適宜評価的なコメントをしたり、詳しく説明したり誤解を補ったり、トランザクションとは異なる会話の特徴に応じたサブスキルが要求されます(Richards, 2015, pp. 412−413)。

日本で英語を学ぶ英語学習者の多くが苦手とするところかもしれません。

当意即妙というか、会話ではまさに「即興」で反応することが求められそうですね。

というより、両者で発揮すべき「即興」の性格が異なると言うべきでしょうか。

「即興」の性格。

トランザクションとて、依頼や招待をしてみるまで相手の反応はわかりません。

断られたらどうするのか、論理的に説得しようとするのか、メリットに関わるような情報を足すのか、泣きついて感情に訴えるのか、そういう「即興」の判断で談話を作っていくことが求められます。

なんとかして事をなしたいわけですからね。

一方、会話で必要とされるのは、端的に言えば、やり取りしている話題に関して「会話の流れ」(the flow of conversation)をコントロールしながら、話し相手と共同で構築していくスキルです。

そうか、話題もポンポン移り変わっていくほうが会話として自然ですしね。

だから、前回紹介した

  • 【事柄・話題】について、【言語材料】などを用いて、【内容】を即興で伝え合っている。

ような評価規準案の下でやり取りをいくら重ねても、そうしたトランザクションとsmall talkや会話(で必要なサブスキル)の違いが見えてこないのであれば、スピーキングのアセスメントとしてダメだと思うわけです。

なるほど、よく分かりました。

Richards (2015)の(言語と各技能に関して書かれた)Part 3だけでも、英語の先生がたを集めて読みたいぐらいです。