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昨日の英語科謝恩会でこんなことを話しました、という話(補足アリ)。

みなさん、卒業おめでとうございます。修了おめでとうございます。

「初心忘れるべからず」という言葉がありますよね。元々は世阿弥の言葉らしいんですが、この「初心」って、一般に思われている「最初に持っていた新鮮な気持ちや高い志」という意味じゃないそうです。私も数年前に知ったんですが(参考)、この「初心」というのは「芸の未熟さ」を表しています。つまり、「未熟でうまくできなかった時の悔しさや屈辱感を忘れてはいけない」、そういう意味だというんですね。

世阿弥は若い頃の初心に加え、成長の各段階での初心、老後の初心があると言っています。今みなさんは、大学で4年から6年を過ごし充実感を感じている。と同時に4月からそれぞれの道に進み、再び未熟な存在に戻らなければいけない。そのことに対する緊張とワクワクと不安とドキドキが入り混じって、ここのところ気持ちがしっちゃかめっちゃかなわけですね。よくわかります。でも、思い出してください。入学時の未熟だった自分を。そして今、あの時の自分と同じ位置にいる後輩から見れば、みなさんはかっこいい、すごい存在として輝いています。4月以降も同じことです。みなさんなら数年もすれば、あるいはDay 1から生徒の反応も良く周りの評価も高くて「オレ、イケてんじゃん?」と思うかもしれない。しかしその時こそ、そこで成長を止めてしまいたくなければ、「初心忘れるべからず」芸を磨くことに邁進すべきだと世阿弥は言うわけですね。

教職実践演習で、教員になることを目的とするのではなく、なってどんな教員になりたいかを考えることが大事だという話をしました。これは、教員に限らず、企業に就職する人にとっても同様です。みなさんは4月以降、この人すごいな、自分もこういう風になりたい、と思える人にたくさん出会うことでしょう。そうであって欲しいと思っています。あの先生のようになりたいという目標の存在が既にいる人も多いですよね。しかし、ただ教員でいるだけで、社会人でいるだけで、その会社にいるだけで、そういう人になれるわけではない。丸山眞男の「『である』ことと『する』こと」みたいな話ですけど、「〇〇である」ということは、みなさんがなりたい〇〇に成長できることを保証するわけではありません。自ら行動し、目指す存在になっていかなければならない。その、なりたい存在になっていく上で重要なのが、今話した意味での「初心」を忘れないことではないかと私は思います。

資格・検定の話も、世間にはそういう目で見る人がいる(というか多いのかもしれない)ということですが、資格・検定それ自体があなたを立派にするわけではない。実質としては、そういったものを取得する過程にあなたがしてきたことや、取得した結果あなたが身につけた知識・技能によって何を成すかが大事なわけでしょう。過程や結果に中身が伴っていないとすれば資格・検定に意味などありません。逆に、いま資格・検定を持っていないからといって、あなたが能力的に劣ることが示されたわけでも何でもありません。問われているのは、それを持たないあなたは(そういう世間の目に対して)どう振る舞うのかということです。確かに、この世知辛い社会状況で、何の免許や資格もなく実力でねじ伏せていくのは容易なことではないかもしれませんけどね。でも、どうか「この程度で良い」と自分の価値を小さく見積もらず、常なる未熟者として堂々とそれぞれの道を歩んでいってください。

これは逆のことにも当てはまると思います。つまり、みなさんこれまでに、「この人、かっこ悪いなー」、「こんな大人にはなりたくないなあ」と思う人にもまあまあ出会ってきましたよね。最近そういうカッコ悪い大人が多い気がしますが、実の所、そういう大人は昔から今に至るまで絶えずいたわけです。私もみなさんと同じ年齢の頃「ああいうクッソみたいな大人にはなりたくねー!」と毎日憤っていた。そして今の年齢だからこそ思うのかもしれませんが、わかったことは、自分がそういう存在になるかならないかの分水嶺は日々の一瞬一瞬に訪れるということです。誰しも、最初からカッコ悪い大人であったり、放っておいてもずーっとカッコ良かったりするわけではない。困っている人がいた時にすっと手を差し伸べられるか、生徒の悩みに真摯に向き合えるか、あるいはトラブルを起こす生徒がいた時にすぐ感情で叱責してしまうのではなく「どうしてそういうことをするに至ったのか」と落ち着いて背景や原因を探れるか、そういう一瞬一瞬の判断と行動の積み重ねによって人はカッコ悪くもカッコ良くもなっていくのだと思います。だから、未熟な存在なりに、今の自分にできる最善は何かを考え行動する。油断せず積み重ねていきましょう。

この謝恩会の後、二次会でみなさんは後輩たちに出迎えられます。みなさんが過去に先輩たちを送ってきて、どういう気持ちでいるかはよくわかってますよね。同期同士で思い出を語り合いたいという気持ちもあるでしょうが、後輩たちとこういう風に過ごせる残り少ない機会です。あとで誰が一番カッコ良かったか聞きますから、みなさん、油断しないでがんばってください(笑)。私もこの後、自分の挨拶がまだまだ未熟であることについてゆっくり反省をしたいと思います。以上です。卒業・修了、本当におめでとうございます。