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ここ2年、文法指導について扱った授業の課題として、

  • 理解・使用に苦労した(あるいは現在、苦労している)文法項目
  • 最も説明に自信がない文法項目

最低1つについて、適宜文献を参照し、自分なりの解説・問題を作成するという課題を出している。

授業では、文法指導における例文・文脈の役割、Form-Meaning-Useのバランス、3つの機能的側面について解説するので(『学習英文法を見直したい』拙稿参照)、その点を意識してもらえると嬉しいが、課題としては、記述の精度はともかく、学習者がどこに引っかかる(と考える)かということへの教師の立場からの配慮を見る。

この課題で取り上げられた文法項目を見てみると、過去2年で傾向が不思議と一致した。多い順に、

  1. 完了相(16年9人/30、15年11人/38)
  2. 関係詞(16年4人、15年6人)
  3. 仮定法(16年3人、15年4人)
  4. 不定詞(16年3人、15年2人)

という具合で、学生が用いた表現としては「現在完了(形)」が多数を占める(その中では単純過去形との対比を挙げるものが最多の)結果となった。昨年は「助動詞」も3人いたが、今年はゼロだった。あとは比較構文や文型、未来表現、分詞構文などが2人いて、進行相、(受動)態、there構文、否定、動名詞といった辺りが1人いるかいないか。

課題として自分なりの解説をしなければならないから、書きやすいものが選ばれた結果という可能性もある。だが、現在完了形(より一般に時制・相)を、英語教員養成課程の学生が難しいものと捉えているというのは、

で報告されている結果とも概ね一致する(関係詞・仮定法は彼らの調査対象項目に含まれていないけども)。私の課題はGraus & Coppen (2015)のように31の項目から選んでもらったわけではないが、提出された課題の記述を見る限り、その困難さが意味・使用場面、日本語との異同の理解にあるという点も、Graus & Coppen (2015)の結果に近い。

しかしこの結果をもって、現在完了形が客観的に難しい文法項目とは、あるいは英語教師が一般に説明に最も苦労する文法項目と言うのは早計だろう。Graus & Coppen (2015)ではオランダの7つの大学の英語教育専攻の学部1-2年生と3-4年生、それと(平均10年以上の教職キャリアを持つ)大学院生の間で困難度の認知が変化していることが示されている*1。全体的な傾向は概ね一貫しているものの、学年が上がると、あるいはキャリアを積むとかえって難しいと感じるようになる項目がある。その文法項目の捉え方が変わる、つまり表面的な理解にとどまっていたものをより深く考え教え方を工夫するようになった、というのは、ある程度経験のある教師なら誰しも実感していることだと思われる*2。

同じことが、私が出した課題にもあると感じる。受講者は2-4年生だが、実感として彼らが、ここで挙げなかった名詞の可算性や冠詞について(完了相や関係詞以上に)自信を持って説明できるとは思えない。ある程度経験のある先生でも、生徒が書いたものについて、三単現のsや動詞の過去形の屈折の誤りは完璧に指摘するのに、冠詞の有無や名詞の単複の不自然さには気付かずスルーというのは間々見られることだ。完了相の細かい意味の違いがあまり理解されていないことは確かにゼミの院生が修論(Nakamura, 2016)で明らかにしているが、課題で取り上げた学生がほとんどいなかった否定表現についても同様の結果が示されているのだ。

  • Nakamura, K. (2016). Key factors in English grammar comprehension for Japanese learners of EFL: An analysis of L1/L2 language analytic abilities and its correlates (Unpublished master’s thesis). Shizuoka University, Shizuoka, Japan.

つまり上記の順位は、「彼らが『いかにも難しい文法項目』と捉えているもの」、言わば「難しいというラベリングのsaliencyが高いもの」を示してると捉えるのが妥当なところだろう(受動態と進行相については授業で例として取り上げたので、その影響があるかもしれない)。Graus & Coppen (2015)でもそれほど難しさの順位の高くない単純現在時制のほうがよっぽど生徒に説明をして納得を得るのは難しいと私には思える。文法の困難さが、先行研究で論じられてきた、構造的複雑さやL1との異なり具合、解説に必要なメタ言語の多寡、学習者の適性といった尺度のどれかに帰せられるようなものではなく、それが複雑に絡み合ったものであるということを示そうとした点でGraus & Coppen (2015)は偉いと思うが、私としてはここで論じたようなこと(要するに自己報告では捉えきれない部分)をもっと掘り下げて考えていきたい。

他方で、現在完了形(や関係詞・仮定法)がこの段階の学生の多くにとって、これまでモヤモヤしてきた、納得できる解説・問題を欲しているものだということも少なからず事実に違いないと思う。なので、スタッフがこの後の授業でスッキリする解説を試みました(どのくらい成功したかはさておき)。

 

*1 オランダでは、学部卒で取得できるのはGrade IIと呼ばれる、中学校段階のみを教えられる資格で、高校段階を教えるには、Grade II取得者が3年間の教職・研究プログラムを経て修士号を取得しGrade Iと呼ばれる資格が必要だそうだ。

*2 彼らが、その困難さを文法項目自体に求めているのか、教授上の配列、あるいは教師要因、学習者要因に求めているのかという考察もGraus & Coppen (2015)では多少与えられているが、ここでは措く。