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院生時代の非常勤講師を含めれば高等教育機関で教えて17年目になる。大学に職を得てからは13年目で、現在の勤務先では9年目。いずれのキャリアを振り返っても最も特異な、怒涛の前期の授業を終えた。その過程で何があって担当授業をどうしたか、振り返ってまとめておく。

担当授業・授業形態・ツール

前期の担当授業と授業形態、使用したツールは以下の通り。諸事情で、例年と比べて前期は担当授業が少なかった。

  • 1年次一般科目「情報処理・データサイエンス演習」45名
    •  非対面・オンデマンド中心 → 非対面・リアルタイム中心
    • 授業用Webページ+YouTube、Teams、学内LMS
  • 2年次以上専門科目「中等英語科教育法Ⅰ」32名
    • 非対面・リアルタイム中心
    • Slack+YouTube、授業用Webページ
  • 3年次以上専門科目「英語教育リサーチメソッド」15名
    • 非対面・リアルタイム中心、一部対面
    • Slack+YouTube、Zoom、授業用Webページ
  • ゼミ: 3年・4年・院生8名
    • 非対面・リアルタイム、一部対面
    • Slack+Zoom

授業開始までのプロセス

大学側は(卒業式・入学式等のイベントは早々に中止を決めた一方で)3月末まで予定通り授業を開始する方針で多くを不安にさせたが、4月23日への延期が決まり、そして緊急事態宣言を受け、4月8日には再延期が決まり、在宅授業を前提に4月30日から開始することとなった。4月30日が月曜1回目となり、ゼミ以外の私の担当授業は5月1、2日が初回。

「情報処理・データサイエンス演習」のような全学共通科目には、担当者で構成される部会が存在し、担当者説明会が開催されたりもするので、筋として部会の決定を尊重するつもりでいた。しかし、3月末から4月上旬にかけてのやり取りで、およそ部会の用をなしておらず、教室や時間割の調整、あるいはそれに伴う担当者の問題等についてほとんど対応する気がないことがわかった(元の教室配置では密集が避けられないが、同じ時間に分散させると教室・担当者確保が必要となり、時間をずらして分散させると時間割上可能かどうかの調整が必要となる)。早々に見限って、TA2人の意向も訊きつつ、自分の担当クラスのことのみを考えることにした。

こちらの記事でも報告したが、4月中旬、学内LMSを通じて連絡が取れるようになったタイミングで、個人的に学生に受講環境のアンケートを配信した(その後、遅れて全学でも実施)。全員が共通して使用可能なのはスマホで、ネットに繋がらない者はいなかったが、1、2年生の授業履修者には常時利用可能なPCがない者、授業時間にリアルタイムで通信することが難しい者が若干名いることがわかり、基本的にZoomのようなビデオ通信を使用せず、事前に録画した動画をYouTubeにアップして配信することにした(学部としても、少なくとも4月30日からの2週間の在宅学習については、Zoom等を使用しないことを求めていた)。「情報処理・データサイエンス演習」はPCの使用(あるいはタブレット+キーボード)を前提とせざるを得ないが、PCについては、大学教育センターの同僚ともやり取りし、その後大学として最低限の対応(PCルームの開放)が図られた。

できるだけ授業時間割に沿って授業を構成することを考えた。理由は様々にあるが、学習のサイクルを対面時と同じに保ち、学生の負担が大きくなり過ぎないようにするためというのが大きい。2年生以上の授業では、グループワークのやりやすさなども考えて、Slackをプラットフォームとすることに決め、上記のアンケート時にその方針を告げておいて、集めたメールアドレスに招待を送信した。以前からこの個人Webサイトに(授業後の資料や動画、フィードバック等の集積場所として)授業用ページを作成しているが、YouTube、Slack、そして個人Webページという構成にしたのは、学内LMSに負荷がかかってダウンすることが危惧されたためである。学内LMSにのみリンクや課題を掲載すると、「授業時間に学内LMSが繋がらず全く授業を受けられなかった」などという事態になる可能性がある。これまでその不便さを補うためにこそ授業用WebページやSlackを整え活用してきたのであるから、この状況で大学のインフラに頼る気には当然ならない。

加えて、授業開始日が決定して間もない4月中旬に、学部で、課題の量について懸念を表明し、「LMSを通じて、どの程度の課題が課されていて、どれくらい連絡が届いているかを一覧できるようにならないか」と具申してみたが、各教員の良識に任せるしかないとすげなくあしらわれた。その良識があてにならないからこそ何らかのナッジを仕組みとして実装すべきだと、その応答も半分以上予測した上で提案したわけだが、実際その後、どの授業についてかはともかく、課題の量が多すぎるとの声が学生から少なからず寄せられた。私も、他の授業について学生からそういう声を聞いた。後期、来年度以降に向けて最も反省すべきところだろう。

ゼミは、2年前からSlackを使っているので、随時情報を共有し、3月末にゼミ生の希望を聞いて、4月から開催することを決めた。4月初旬にTeamsとZoomを試してみて、Zoomが良いという判断に至り、4月9日に接続テストも兼ねて集合・雑談し、変則スケジュール明けの4月14日から毎週、Zoomで開催した。

授業の準備と展開

最初の2回は変則スケジュールで、それ以降は、基本的に全て月曜には整っているようにした。火水が授業日だったので、月曜までには作成を終えて、資料と、展開に合わせて最初もしくは全ての動画をアップ・共有した。リアルタイム中心の授業であっても、資料や動画を見るタイミングは学生が選べるようにというオンデマンド的配慮が一つ(中等英語科教育法Ⅰは朝1コマ8:40開始だが、前日に動画を観ておけば、ちょっと寝坊できるという親心)。そうしないと私自身が毎日撮影・編集することになって気が狂うと思ったことが一つ。

Slackを利用した授業はたとえば下図のような形で、必要なチャンネルを用意し、講義資料を事前にアップしつつ、月曜に最初の動画をアップしておいて、火曜の授業時間にその動画を視聴する時間を確保するところから開始という流れ。

一つひとつの動画は極力短めに、できれば10分以下、長くても15分、余程の理由がない限り20分は超えないようにした。後半の活動時間をまとめて取るために質的アプローチの解説をまとめた英語教育リサーチメソッドの動画1つが30分になった他は、半期を通じて25分を超えた動画は1つもない。Slackを利用している授業についても、授業後に資料や動画リンクをWebページにまとめ、オンデマンド的に復習が可能な体制を整えた。Slackのタイムラインを辿っても、Webページを通じてでも授業には追いつける。毎回のリフレクションはWebページにまとめて掲載し、いくつか抜粋したものを次の回の配布資料に載せ、冒頭の動画でコメントする。要するに、授業の前後にオンデマンド的な余裕を持たせつつ、リアルタイムで双方向性を確保し、間を資料等で補う、というのが最も学生のためになると判断した。

この状況で、いきなり初回からスライド共有画面のワイプで淡々と語る、というような授業にする気にはなれなかったので、初回授業は特に、研究室をスタジオ風に整えてビデオで撮影・編集した(こちらを参照)。もともと授業見学等でビデオや三脚等が整えっているので、機器を新たに購入する必要はなかった。ただ、内容が本格化して表示するスライドが見にくいと困るので、第3回以降はZoomの画面共有を利用した動画が中心となった。在宅勤務要請が本格化する前辺りから自宅の環境を整え、週末に自宅で撮影・編集するようになった。研究室へは、なるべく会議等で行く必要のある日にまとめて、資料を取りに行ったり複写したりに行く程度。その後スキャナーも自宅に移したので、現状では、授業準備に関しては、文献を取りに行く以外で大学に行く必要はほとんどない。

学生に相談しつつ、英語教育リサーチメソッドでは、リアルタイムの話し合いが必要と判断された内容についてはZoomを併用し、統計データ分析のハンズオン演習については、大半の授業が非対面で実施となっているおかげでWi-Fiの飛んでいる広い教室が利用できたので、感染対策を施した上で対面で2回授業をした(ただし、そのタイミングで実家に帰省している学生もいたので、Zoomを併用したハイブリッド形式となった)。ゼミも教採の面接練習で2回対面で実施している。英語教育リサーチメソッドは例年ポスター発表会を実施しているが、オーディエンスを含めると人数が多くなり過ぎることも懸念されたので、Zoomでの開催とした。

元から授業後にうだうだ授業のことを考えるほうだが、教室との行き来がない分、どこかで時間の流れを切らないと無限ループに陥ると思った。火水にFacebookに振り返りをまとめて投稿し、最低でも木〜日の1日は、できるだけ好きなことに好きに時間を使うようにした。紙媒体の印刷の必要がなく、課題や試験も紙媒体で提出されることがなかったので、添削・採点は例年よりスムーズだったと言える。もちろん最終課題の添削や成績評価はこれからだけれども。

疲労の蓄積は回が進むにつれて十二分に実感されたが、総じて例年に見劣りしない充実した授業が作れたし、心を病むことなく半期を終えられた。全体を振り返った学生の感想を見ると、なんなら対面式よりも手応えや成長の実感の多い、キメ細かい授業となったようにも思う。やり方に合わせて全ての授業の内容を見直すことにもなった。とは言え、回によっては資料の作成から撮影・編集までで10時間ぐらい結果として費やした授業もあるので、sustainableなやり方かと言われると心許ない。後期は担当授業数が増えるので検討・調整が必要だろう。