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[レビュー054] Koda and Yamashita (Eds.), Reading to learn in a foreign language

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いただきもの。

リーディングの授業についてあれこれ考えながらGrabe and Stoller (2019)の初版やKoda (2005)を読み散らかしていた昔を思い出した。

本書は、指導と評価を一体化した、内容中心のリーディング指導法の提案および実践報告集である。具体的には、(a)テクストの言語情報に基づく意味の構築(text-meaning building)、(b) 個人の経験や先行知識との接続による意味の構成(personal-meaning construction)、(c) (a)と(b)で学んだことに関する省察(knowledge refinement)という「相互に関連する3つの処理」(p. 3)をreading to learnという概念で括り、これを含む指導のアプローチをThe Integrated Communication (IC) skills approachと呼んで、日本とアメリカの大学・短大の複数の授業における実践を通じて、その成果の検証を試みている。Koda(第3章)によれば、IC skills approachには以下の4つの前提があるという。(1) reading to learnの処理が含まれる、(2) リーディング能力と言語的知識は機能的・発達的に相互依存関係にある、(3)内容面の学習が起こるのは、テクストの情報と読み手の選考知識の統合を通じて新しい洞察が生み出された時である、(4) L2リーディングの発達は、学習者が二つの言語で先行して獲得したものを足場とする(p. 39)。

研究者としてこの分野に足を踏み入れる者にとって、第3章などは特に、これまでのL2リーディング研究の整理として役に立つだろう。それをcontent-based approachの観点から展望した第2章からも一定の示唆が得られる。しかし本書の最大の特徴は、Kodaが提案するreading to learnの3側面について同じ事前・事後のテストを用い、Organization, Analysis, Content, Reflection, Language Useの5つを観点とする共通のルーブリックを用いてエッセイの評価を行っていることだろう。この手のアンソロジーは、よくて共通の問題意識に貫かれていたとしても、それぞれの文脈で、それぞれの方法で実施した一次研究が並んでいるだけという形になりがちなので、同じ枠組みで一貫性を持って結果が示されている本書の意義は小さくない。また、Appendixによる資料も含め、それぞれの実践の文脈や指導過程も比較的丁寧に示されているので、大学・短大で授業をする者にとっては参考になることが多いだろう。特にKojima(第8章)は、上記テストやエッセイ評価の結果だけでなく、授業コメントの引用を通じて一連の授業における学生の変容の観察を記述し、授業者自身の迷いや省察を包み隠さず示すことで、実践の報告を立体的なものとしている。

ただ、リーディングにおいて上記のreading to learnの3つが重要な要素だとして、なぜそれぞれが独立に、そのまま指導の順序になるのかが最後まで分からなかった。7つの実践報告はそれぞれの文脈・教材で比較的柔軟に授業を組み立てている(逆に言えば、適宜、担当授業にIC skills approachを当てはめている)が、例えばMurao(第5章)やIchikawa(第7章)は3回ないしは4回を一つのサイクルとして、各回を(a)、(b)、(c)に割り当てて授業を行っている。定義上、(b)はテクストの言語情報「との接続」を求めているし、(c)に至っては「(a)と(b)で学んだこと」とあるわけだから、そもそも前の段階を前提とした、順序性を持った概念であることは事実だ。何かを読んで書くというプロセスを考えた時、テクストを理解してから意見を交換して、振り返って…というのは常識的な考え方だとも言える。しかし、それがそれぞれ90分一コマの授業の区切りに対応するかどうかは授業論として別次元の問題である。

実際のところ、上記の2実践であれ、PPP的構成のBaba(第6章)の授業展開であれ、どの実践者も授業が始まるや否や”OK, open your textbook to page …”というような渇いた授業はしていないだろうと思う(思いたい)が、「相互に関連する」というKodaの定義からしても、一回の授業の中に3側面それぞれへのフォーカスがあってもよい。というよりも、学習者は常に、自分の経験や知識に引きつけながらテクストの言語情報を読んでいるだろうし、(b)を入り口にして(a)を読み進めるということは既に中高大の多くの教室で行われているだろう。Yamashita (第4章)やMuraoのAppendixに示されたワークシートの設問を見ても、むしろこれまでのコースブックではスキーマ喚起を目的として読む前に置かれているような問いが含まれており、(b)の指導過程が順序として後でなければならないという論理的必然性はないように思われる。(c)が操作的に何を意味するかというのは曖昧なところであるが、中高の授業のペースならともかく、週1回90分の授業で2週間後まで、自分に引きつけて学んだことを一切振り返らないという方が逆に不自然で、もっとダイナミックに捉えるべきものではないだろうか。こうした点で、最終章にはもう少し掘り下げた考察を期待したかったところである。

もう一つ、ルーブリックは詳細に示されているので批判に耐えうるとしても、事前・事後のテストについては、使用したテクストが挙げられているのみで、3つの側面に関する具体的な問題が示されていないので、操作的定義の妥当性や、当該テストがどの程度等価なものと言えるのかが判断できないという問題がある。上述の通り、本書は同じ枠組み・テストに基づく実践報告集として読まれると良いので、構成概念の専門的な検証に踏み込む必要は必ずしもないとは思うが、上記の指導過程と関連して互いの相関が気になるし、推測統計の適用条件を満たしているとは言えないものの、用いているのは事前・事後のt検定のみで、交互作用は見ないのかな?と思ったりした。授業では3つの側面に順序性を仮定して指導過程が組まれているのに、事前・事後テストでは(おそらく)同時に3側面を測ることへの違和感(授業時のように理解が熟す時間を取らずに(c)が測れると考えるのはなぜなのか)もある。今後の研究で明らかにされることを期待したい。

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