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[本086] 志水『二極化する学校』

[本086] 志水『二極化する学校』

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読みやすく、コンパクトにこれまでの研究成果がまとめられており、現在、小中高の教育に関わる人の必読図書と言って良い。

教育学関係のゼミで取り上げたり、学部3年次ぐらい以降なら専門科目の参考図書にあげたりレポートの課題図書としてもよい(教育格差の問題を理解する上でも、松岡亮二さんの『教育格差』より読みやすいので、こちらを先に読むと良い)だろう。高校の学区制の変遷などは、自身の経験だけで語りがちなので、全員が知っておいたほうが良いことだと思われる。図表を通じた結果の示し方についても参考になる。

ちょうど前記事で大阪市教委の取り組みに触れる記事を書いたが、相談に答えるメールを書いたのは本書を読む前だった。大阪市のことも含め、全体として指摘と合致する内容で(過去の志水さんの研究をそれなりにフォローしているからでもあるが)自分の感覚がズレていないことに安堵した。ただし、大阪市の教育をめぐる困難さだけでなく、見るべき強さとこれまでの堅実な取り組みについても本書は触れている。

本書によって可能となること、あるいは本書を通じて必要なことは、

(1) 小中高の教育に関わる人に、本書の内容をわかりやすく説明できる人をできるだけ増やすこと
(2) 保護者を含め、できるだけ多くの人が、自分の被教育経験や育った地域の学校制度や教育のあり方を相対化すること
(3) 教員が自らの置かれた環境について理解を深め、特にしんどい学校に配置された教員たちが必要な条件整備に対する要求運動を強めること

だろう。

ただし「二極化」という言葉は、この問題の深刻さを訴える意味で十分ではないかもしれないと感じている。多くの人、特に本書で言う「教育を選ぶ」人は、二極化していると言われれば当然、選ぶ側に残ろうと思うだろうし、それが「教育を受ける人」の犠牲の上に成り立つ者だったとしてもそれほど意には介さないからだろうからである。たとえバイアスがかかっていても、「不平等と排除を強め(持てる者が機会を収奪す)る学校の分断」ぐらい言って公のあり方に目を向けてもらってもいいのではないか。

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