レビュー
[本111] 鹿毛『モチベーションの心理学』

[本111] 鹿毛『モチベーションの心理学』

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学生はよく卒論のテーマにしようとするのだが、私自身は昔からモチベーションにあまり興味がない。もちろんなんらかの形でモチベーションを論じた文献は研究室の書棚にたくさんあって、ダニエル・ピンクの『モチベーション3.0』なんかも嫌いではない本である。

ただ、授業(づくり)を中心に考えれば、来た者に授業をするより他はないのだし、(授業ではどうこうならない問題があるとしても)授業前のモチベーションの高低を問うても仕方がない、と思ってきた。

授業後に学習者のモチベーションが上がるならそれに越したことはないが、それを授業の直接的な目的とするのは変だろう。私にできるのは学習者や先生と良い授業を作ろうとすることであって、その結果モチベーションが上がるかどうか、あるいは既に高いモチベーションが維持されるかどうかは学習者の側に委ねるべきことだと考えてきた。

この考えは基本的に今も変わりはなく、自分自身のモチベーションについてもあまり考えない。「やる気」なるものがあろうがなかろうが、やるしかない(という状況に自分を追い込むか、投げ出してしまうか、だ)。それゆえ自身でモチベーションにかかわる研究に手を出そうとは思わないが、本書のような包括的整理に学生時代に出会っていたらちょっと違っていたかもしれない。人のモチベーションについて研究したからといって学習者のモチベーションを上げる方法が分かるわけではないが、帯にある通り、人間(の様々な振る舞い)に対する理解が深まる。そのことを多彩な例で教えてくれる良書。

実は中公新書は昔からニガテだ。重厚で、良い文献が多いのは重々承知している。しかし、おそらく講談社現代新書と岩波新書で最初の新書感覚を身につけたが故に、「新書にしては重い」と感じてしまうのだろう。本書も読み通すには結構な気力が要る(と思う)。だからこそ、学生や院生は、モチベーションに興味のある者で集まって本書の読書会をするといい。余計な飾り気なく、議論の素材をたくさん提供してくれている。

ゼミの一期生にも本書に含まれるトピックに興味を持つ者が複数いて、おそらく来年度入ってくる後輩にも最低1人はいるだろうから、本書をもとに外国語教育に当てはめて議論をしたり(本書の中にも例としてたびたび出てくるが)論文を探したりするゼミ内モチベ・サークルを立ち上げるといいかもな、と読みながらつらつら考えた。

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