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[レビュー069] 澤田・仲島・森『中高生のための文章読本』

[レビュー069] 澤田・仲島・森『中高生のための文章読本』

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この本は良質な授業だ。一篇一篇と、要所に添えられた問いかけや末尾の「手引き」もそうだし、選ばれたノンフィクションの内容も、読書に関する詩で始まる全体の構成もそうである。

後ろの「評論と楽しく付き合う4つのコツ」は特に秀逸だ。国語教師の知恵が凝縮されている(それが収められた評論と対応しているところがポイント)。お今日はシチューかな、といった感じで、この国語の授業はきっと良いなと感じさせる教育内容の匂いがする。

教員志望の学生、あるいは現に教えている人は、この中で好きな評論を選び、自分だったらどこで何を問いかけるかを考えたり、誰かと議論してみるとよい。本書の問いかけが、読書を邪魔せず、ちょうど良い塩梅のものばかりであることに気づくはずだ。その意味で本書は、「読むこと」に関わる教員養成の授業でも格好の教材となるだろう。

自分だったらここに何を加えるかを考えるのも楽しい。というか、是が非でも加えたいノンフィクションのある先生であって欲しい。私はピリリと山椒の効いたものが好きなので、森毅さんのアレかな、それとも佐藤雅彦さんのコレかな。

英語について本書と同じような本を作れるか、ということを考える。実際、英語は時事英語にしろ入試問題にしろ「読み物」に事欠かないし、かつてダグラス・ラミス『高校生のための英語読本: 鏡としての外国語』(筑摩書房、1994年)  なんて本もあった。しかし、ラミスさんの本を本書のように読みこなせる中高生は(願望としてはいてほしいが)あまりいないだろう。

(英)文学の居場所が狭められて、英文学者たちや英文学を愛する人たちは逆に奮起している。優れた短編を注釈付きでまとめたり、文学作品を味わってもらうための工夫や意味づけの活動にさまざまに取り組んでいる。ノンフィクションはどうか。何より、英語で書かれたノンフィクション、あるいは評論を、本書のような眼差しで捉えて、中高生に届けようと思っている英語の先生はどのくらいいるだろうか。

その意味で、国語科教育、あるいは日本語教育の関係者だけでなく、大人たちにも広く手に取られて、言葉を読むこと、それを教えることについて考える機会となって欲しい。

本好きは良い本が出ると嬉しい。それが知り合いの手による本であればなおさら。良い仕事するなあ!とコーヒーの苦味と酸味がいつもより心地よい。さらに触発されてしまえば、学生・院生向けに、教育学について、あるいは英語教育学について、本書のように、選りすぐりの論考を集めて問いを投げかける本があるといいのではないか。編みたいな。

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