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[レビュー072] 山中・神原『プラグマティズム言語学序説』

[レビュー072] 山中・神原『プラグマティズム言語学序説』

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いただきもの。そもそもなぜご恵投くださったのか?というのは、立命館大学のPEPに関するレビューなどでやり取りさせていただいていることが大きいと思うが、拙編著『英語教育のエビデンス』(研究社)を本書で引用してくださっている。他分野でも参照されているのは面白いというかありがたいというか、言語学研究の議論に資するところがあったとすれば望外の喜びである。

ちゃんと拝読せねばと読み込んだのだが、これが「言語学」と言えるのか、あるいは本書が提示するような枠組みでなお言語学と称する理由が、読み進めるほど分からなくなった。ざっくりまとめれば、

  • 言語至上主義を批判→なるほどね
  • プラグマティズムが言語研究に持つ含意を論じよう→おお、粗々だが、大胆でおもしろい
  • コミュニケーションのマルチモーダルな側面に目を→わかる
  • フレーム理論を導入→?!
  • 記号論、ネオサイバネティクス、プラグマティズムの親和性→?!?!

というところ。アドホックな意味生成は関連性理論などの語用論的研究でも探究されてきた話で(本書にも言及はある)それはそれで良いとしても、言語の形式的側面がなくなるわけではないのだから、既存言語理論との接続というか、統語部門や音韻部門が本書の枠組みではどう説明され、既存理論の説明と比べてどういう有り難みがあるのかを語らないと、新たな言語学の提案とは言えない。

意味や有契性の話だけで、「他者や文脈との関係性において、プラグマティックに主体がマルチモーダルな意味を生成してるんだ」ではそもそも生成文法的言語研究に対する有効な批判は構成できておらず、彼らは痛くも痒くもないだろう。

あと、言語学と応用言語学・外国語教育の議論の錯綜も気になった。応用言語学、もっと狭めれば日本の学校英語教育の議論としては傾聴に値する部分があちこちにあるなあとは思ったのだが。故に、『プラグマティズム応用言語学序説』であれば、もう少し素直に受け取れたというのが私の立場からの感想。とは言え近年、若手だけでなくベテランを含めても、一つの学問分野を新たに開拓しようとするような野心的な書物に出会うことは少ないので、その点なんとも天晴れで敬意を表したい。

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