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著者は交替していますが,Gass & Selinker (2008)の改訂版にあたるGass et al. (2013)ーー第4版と明記されていますーーでは,replicationの節が加筆され,meta-analysisの節が新たに追加されています(pp. 63-64)。

定評ある第二言語習得研究のテキストと言ってよいと思いますが,入門というには学部生には(あるいは院生にも)歯応えのあり過ぎる文献です。本書全体を訳す体力と能力が私にあるとは思いませんが,試みにこの2つの節を訳してみました。

3.5 追試(replication)

「科学的方法の最も重要な要件は,他者が繰り返し,正しいかどうかを確かめることができる観測である」(American Psychological Association, 2010, p. 12)。第二言語習得研究の大半は実証に基づくものであり,そうした研究には追試が必要だ。第二言語習得研究は人間のふる舞いを扱うわけで,その結果に一貫性を欠くことがよくある。さらに2つの要因,(a) 多くの研究に見られる実験参加者の少なさと(b) 第二言語の性質がこの問題を複雑にしている。文献で報告される研究の多くは少数の実験参加者しか得られておらず,そのせいで(その過程であれ成果であれ)習得について意味のある結論を引き出すことが困難になるのだ。もう一つ考慮すべきなのが,第二言語の知識の性質である。学習者とはまさにそう,学習者なのだ。彼らの知識がはっきりと定まらないことは多い(Schachter et al., 1976)。これは,前述の通り,第二言語のある側面に関して学習者には確信がない場合があるという事実のことを指している。それは,学習者が「取り組んでいる最中の」言語の側面であるからかもしれないし,それに関してはっきりした知識をまだ持っていないからかもしれない。そのとき彼らの言語行動は一貫しないものとなり,例えば以下の発話が実際上,同時に生起することもある。

(3-36) I am here since yesterday.

(3-37) I have been here since yesterday.

Polio and Gass (1997)は追試研究の重要性を論じているが,同時に,別の個々人を対象にしていることを考えると,「厳密な追試」(exact replication)が不可能であることも認めている。追試研究は,実際のデータで手を汚すのが初めての者にとって理想的なやり方である。結果の頑健性と一般性を高めることに重点を置く最近の研究では,追試が重大な関心事であり続けるだろう(Porte, 2012)。

3.6 メタ分析(Meta-analysis)

追試は結果を確かめる方法の一つであるが,結果を確かめ比較する別の方法もある。複数の研究が共通の問いに取り組んでいるのであれば,その結果を集約することが妥当な場合が多い。この集約は,メタ分析として知られる,複数の研究にまたがる結果を量的に統合する体系的手続きを通じて行うことが可能である。前に述べたデータ誘出タイプの多くは,実験参加者から得られた標本データをまとめて平均値を求めるわけだが,この手法でも標本データの得点をまとめることになる。しかしメタ分析の場合,標本は,個々人からではなく,個々の研究から得る。正確に言えば,その際のデータ得点は平均値ないしは効果量(例えば,Cohen’s dや相関係数 [効果量の解説はPlonsky, 2012aを参照])である。つまりメタ分析とは,最も基本的な形としては,平均値を集めたものの平均である。

第二言語研究者はメタ分析によって,先行研究を統合するツールの一つとして,伝統的な文献レビューについてまわるいくつかの欠点を克服することができる(Oswald & Plonsky, 2010)。例えば,レビューでは蓋然性と有意性という概念に大きく依存する傾向があるが,それは,当該分野(Brown, 2011; Nassaji, 2012; Norris & Ortega, 2000; Plonsky, 2009, 2011)だけでなく,他の社会諸科学の量的研究手法を論じる者の多くから,欠点があり誤解を招くと見なされている慣行である。他方メタ分析は,量的分析の基準として効果量を用いる。メタ分析のもう一つの利点は,包括的・量的アプローチを具体化しているということで,誤りを免れない人によるレビューでは,言語的に説得力のある議論を提示した研究や、より目立つ権威ある学術誌に掲載された研究に影響を受けるかもしれないが,そうした影響を取り除くことができる。メタ分析によって熟練のレビュアーの役割が損なわれると言いたいわけではなく,むしろメタ分析によるレビューの量的・体系的性格が成果の客観性・透明性・再現性を高めることに寄与するということを強調したい。

教育学・心理学・医学のような分野で長らく享受されてきたこうした利点やその他の利点を認め,Norris & Ortega (2000)は,指導の効果に関する研究を統合するメタ分析に第二言語習得研究の大部分を取り入れた(そしてよく引用される)。それ以来,第二言語研究におけるメタ分析が急速に増えている(Norris & Ortega, 2010; Plonsky & Oswald, 2012)。今までに,フィードバック(例えばLi, 2010a, 2010b)や動機づけ(Masgoret & Gardner, 2003),方略指導(例えばPlonsky, 2011),インタラクション(Mackey & Goo, 2007)のような第二言語習得研究のトピックに関して,およそ40のメタ分析が行われている。さらにこの分野では,研究の進展や第二言語習得研究者たちの関心を示す別の指標として,メタ分析の手法について論じる論文も多く見られる(例えばIn’nami & Koizumi, 2010; Oswald & Plonsky, 2012b)。

メタ分析はこの分野において比較的新しいものなので,それが第二言語の理論や研究方法,実践の発展に対して持つ長期の影響を正確に測るのは難しい。それでもなお,第二言語に関するますます多くの研究領域で,メタ分析的な手法を用いた研究統合が行われていくことを期待したい。

さあ皆さん,Gass et al. (2013)を買って,私の訳の出来映えを評価してコテンパンにするチャンスですよ!この節以外にも改訂箇所はありますし,第3版とどこが変わったか確かめるもよしです。文中で引用されている研究の出典についてもGass et al. (2013)を買ってお確かめください(という宣伝で引用をお認めください)。

訳してみて改めてその読みやすさに気づきましたが,久しぶりにそういう作業をしたので肩がコりました。日本語としての表現の自然さや流れが気になってしまって,なかなか前に進まないんですよね。

Standing on the shoulders of giants … tremblingly.