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ここ最近は、各人が読みたい論文を事前に指定し報告しているSkype読書会。

の報告を私が担当した。

著者はケント州立大学のグループで,筆頭著者は,第二著者のRawsonとちょいちょい引用されてるDunloskyのラボの院生(2017年にこれとは別の論文でMAを取ったようだ)。Dunloskyは記憶やメタ認知の研究で知られる(邦訳『メタ認知: 基礎と応用』北大路書房)。

以下、まとめ。


【ざっくりの要旨】

  • 良かれと思った方法がことごとく否定された話(けっこう好き)
  • 学習者が例を簡単に思いつければ苦労しないという(授業研究ではわりと既知の)話の裏付け

【定義】

  • 宣言的概念(declarative concepts): 様々な事態に適用可能な,重要語句による短い定義で示される抽象的な概念(g., 運動エネルギー,位置エネルギー/(相利)共生/擬人化,メタファー/正・負の強化)
  • 与えられる例(provided example, PE): 宣言的概念がどのように適用可能かを示すために(教師や教科書によって)学習者に与えられる当該概念の具体例
  • 考案される例(generated example, GE): 宣言的概念を適用する練習のために学習者が(例が与えられている場合はそれとカブらないものを)自ら考えて作る当該概念の具体例

【RQ】宣言的概念の学習に(長期効果・時間的効率の点で)最も効果的なやり方は何か

  1. 例を与えられるやり方(PE法)と考案するやり方(GE法)のどちらがより有効か
  2. 両方を組み合わせるやり方(P→G法:)は,どちらか単独のやり方よりも有効か

【方法】心理学の10個の概念を教える2回の実験

〔対象〕

  • 実験1: 大学1,心理学専攻2年114/133人(PE法36, GE法40, P→G法38人)
  • 実験2: 同大学1年と心理学専攻学生181/206人(PE 46, GE 42, P→G 46 + P&G47人)

※問題解決時に実例をに立ち戻って活用することよくある〜(Caroll, 1994)ということから実験2では同時に提示をして考案時に与えられた例を参照できるようにするP&G法を追加

〔手順〕

  • 学部レベルの教科書から採集した100例(10例/概念)
  • 無作為に群分け → 事前調査・テスト → 教科書の文章自己ペース読み → 各概念・定義自己ペース学習 → 群ごとの条件で各概念2例ずつ×2セットのPC個別練習 → 2日後, 100例(内40例はPE法が練習に使用,その内半分はP→G・P&G法も練習に使用,残り60例は全群にとって新規)を自己ペースで各概念に分類するテスト → 定義解答テスト

→表3を見ると,最初の時点でグループ間のレベルがまあまあ異なるような…?

〔集計〕長期効果は事後の分類テストの正解率で,時間効率は新規例の正解数をかかった時間で割った値(GPM)で比較,二次的に定義解答テストの正解率,例の多様性・質の評定(PE・P→G・P&Gで与えられる例の質は1.96/2で,重複度は14%)を比較に使用

  • 二つの実験合わせた長期効果: 例を与えるやり方のほうが効果的でしたァッ!
    • RQ1: PE > GE, d = 0.40 [0.09, 0.71]
    • RQ2: PE > P→G, d = 0.28 [0.04, 0.53], P→G・P&G > GE, d = 0.09 [-0.15, 0.34]
  • 二つの実験合わせた時間効率: 例を与えるやり方のほうが効果的でしたァッ!
    • RQ1: PE > GE, d = 1.39 [1.05, 1.74]
    • RQ2: PE > P→G, d = 2.15 [1.84, 2.46], GE > P→G・P&G, d = 0.41 [0.16, 0.66]

【考察】この記事のタイトル(あるいは「概念説明時における例示の有難み」ということ)に集約されると思われ

〔なぜPEがGEより効果的だったのか〕

  • 長期効果の違いは(時間かけた群ほど有利的な)学習時間の違いでは説明できない。
  • 定義解答テストの結果は両実験とも全群低め(M = 18〜25%)で,例を分類する際に,定義自体の記憶に頼っていたとも考えにくい。
  • 練習中に触れていた例の質の高さが記憶に影響したのではないか。

〔なぜP→G・P&G (COMB法)がPEより効果的ではなかったのか〕

  • 練習中に触れていた質の高い例の量の差: 概念あたり2例 vs. 4例

〔(だとしても)なぜCOMB法がGEより効果的ではなかったのか〕

  • 例示数と学習の関係は線形ではなく,それが効果を発揮するまでにある一定数の例が必要なのではないか(それがCOMB法では十分ではなかった)。
  • GEの効果が,(a)考案の成功水準によるのか,(b)試行によるのかは今後の課題( Rawson and Dunlosky, 2016)

【今後の課題】他の測り方も…といった話は当然として,

  • 練習前にもうちょっとマシな授業を受けておけば効果高まるかも(指導内容問題)。
  • 複数セッションを用意して,例・練習を分散させておくといいかも; COMB法の場合,例生成の前により良い概念の知識を持っていると良いわけで(指導計画問題)
    • rule-based conceptsの文献では,先行知識が豊富な学習者ほど問題解決から多くを学び,先行知識が乏しい学習者は実例を伴う練習から多くを学ぶことが示されている( Kalyuga, Rikers, & Paas, 2012; Also see Martoccio, 2017)。
  • COMB法のやり方を,例提示→例部分完成→例考案といったように段階化すると良いかも(指導過程問題)

論点としては、当該論文に関して、

  1. なぜこの10個の宣言的概念なのか: 概念系の体系性と内的連関と学習との関係をどう考えるべきか
  2. 概念系の内的連関と関わって,分類テストの誤答の傾向はどうなっているか
  3. なぜ“long-term”が2日後なのか: テスト前の典型的な勉強間隔という極めて実務的な説明には納得もしたものの,「学習の長期的効果」の通常のイメージで言えば,翌週の授業や学期の終わり,さらに後のタイミングで当該概念を適用して物事を考えられることが大事であり,苦心して自ら例を考案した(作業に意味があるとすれば,その)記憶が残っているかどうかの検証にはそれぐらいのスパンが求められるのではないか

といったことを指摘した。

外国語学習に関して、(受容・産出のどちらであれ)自然環境での外国語の運用過程において,ここで行われている「具体例をそれが属するラベルに割り振る」という作業に直接対応するものはない。明示的文法知識の学習の議論に限っても,定義解答テストのような作業(例えば「現在完了」というラベルに対してその定義を答えさせる)は大半のSLA研究者の関心ではないだろう(読書会では、「明示的・暗示的知識」の議論における概念の抽象度の区別問題や、外国語(言語)学習にそもそも抽象概念が必要か、必要だとしたら何がどの程度必要かという問題も議論したがここでは措く)。

ただ,「接触した言語データを,その学習者が形成している意味・機能のカテゴリーに割り当てて解釈をする」といった考え方をすれば,外国語学習と全く関係のない作業の研究とも言えない(読書会参加者からは、当てはめるとすればコロケーションの学習のようなものかな、という指摘)。少なくとも、日本の中学・高校の検定教科書は、ある文法概念に対して例文が少な過ぎるとは言えそう。学習者の中にろくに例のプールが満たされていない状態で一般化しようとしているということがあるかも。ただし,なんでもinputになる訳ではなく,何がworked examples足り得るのかの吟味は必要。これまでのSLA研究を例文の有無と量,定義の抽象度で再検証してみるとどうか(、ということは以前からずっと考えているのではあるが)。

【参考文献】

Carroll, W. M. (1994). Using worked examples as an instructional support in the algebra classroom. Journal of Educational Psychology, 86, 3, 360–367.

Kalyuga, S., Rikers, R., & Paas, F. (2012). Educational implications of expertise reversal effects in learning and performance of complex cognitive and sensorimotor skills. Educational Psychology Review, 24, 2, 313–337. http://doi.org/10.1007/s10648-012-9195-x

Martoccio, A. (2017). How does prior explicit knowledge affect the efficacy of explicit instruction and feedback? The case of the personal a in L2 Spanish. Language Teaching Research, 1–19. http://doi.org/10.1177/1362168816689802

Rawson, K. A., & Dunlosky, J. (2016). How effective is example generation for learning declarative concepts? Educational Psychology Review, 28, 3, 649–672. http://doi.org/10.1007/s10648-016-9377-z