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台風19号の翌日、被害も逃れ新幹線も動いていたので、東大でのシンポに参加した。出張ではなく、一大学教員、一英語教育研究者の実存的あり方の問題として。以下、ツイートもしたが、長文の感想と私見。

大内先生の整理や紅野先生の話は面白いところもあったが,ではどう止めるか(少なくとも延期させるか)については不十分だったことは否めない。受験生を犠牲にせず、われわれ不甲斐ない大人たちの罪をこれ以上増やさないためにはどうしたらいいのか。

今日はこれまで指摘されてきた問題がまとまった形で出し揃えられたが,私は公平性一点勝負で行くべきだと考えている。下記の問題点の整理を借りれば、「受験生の負担」(7〜9)の問題をこれでもかというぐらいつぶさに具体的にぶつけ、「試験の内容・運営」の4と5を補足とする、という選択。

(1)まず(本来やるべき人が速やかにやらないので)羽藤先生がツイートした表を手分けして埋める*。各都道府県の各検定・試験のキャパを数字で整理する。

(2)その上で,実際にいくらかかるのか受験のための各地域の交通費・宿泊費も含めたmin-maxを出来るだけ多くのパターン算出する(お金はかけようと思えばいくらでもかけられるので上はキリがないが,3年生のみを考えたパターンと,高校1,2年生で受験させられたり受験したりする練習も含めたパターンがあると良い)。現行のセンター受験で済むパターンとの差額を出す。

この時点で,算出された負担増がどういう論理のもとに肯定されるのか関係各位に問うてよい。「あなたはこの地域・経済格差の拡大を許容する政治家なんですか?」と問えば,特に地方において政党は関係のない問題になる。実施延期法案の提出に成功したとして,賛成しないことが自身の不利益になると議員たちに思わせる機運とデータを用意することが重要。

(3)(1)をもとに何校程度がGTECの受験会場となりそうかを算出する。当然ながらルール上,当該高校の教員は試験監督にはなれない(一方で,じゃあどこから試験監督を確保するのかという問題についても問うべきだが,今は措く)が,教員の負担が増す(すでに相当増してる)ことは間違いがなく,高校側がどのくらいしんどいことになるのかを見積もっておくべきだ。

(4)各高校などの協力を得て,録音の不良率を出しておく。高校を会場に実施したとして,まともにスコアが残らない受験者がどの程度出てしまい兼ねないのか(再試験可能なの?)、センター・リスニング機器不具合率に毎年ご執心の方面にも、数字として示せるようにしておいたほうがいいだろう。

以上の作業で明白に示されるのは,「1点刻みの評価からの脱却」なるものを目指した結果の現状が,他でも何度か使っているメタファーだが,でんぐり返しができたら健康だという程度のことを示すテスト(と学校のグラウンド10週走るテストと,公園でのラジオ体操テストを比べているような制度)で,そのために受験生とその保護者がどれだけの費用を負担しなければならないのかということだ。それをわれわれの社会は受け容れるのか,それを強行する人を支持し続けるのかという問題だ。

一昨日の台風19号のために,小学校教員資格認定試験(所定の手続きを経て3次試験まで合格すれば2種免許状が取得できる)の2次試験を受験予定だった人全員が合格になったという(ニュース記事)。この判断を借りれば,来年度(以降)の大学受験者のうち,今年度までに必要な資格・検定のスコアを有している者は再度受験する必要はないということを認めよう。さらに言えば,高校で外国語科の所定の単位を修得して高校を卒業予定または既卒の者は,A2を持っていることを認めてしまおう。「精度向上期間」と言うならむしろ、高校側のアセスメントの「精度向上期間」を5〜10年ぐらい用意して環境整えて、高卒でOKにしたほうがよっぽど実り多い英語教育改善に繋がるのではないか?

シンポジウムで発言した高校2年生のあまりにも謙虚な姿勢に、私はなんとも言えずいたたまれない気持ちになってしまった。もっとブチ切れていいし,それぐらい要求していいと思う。本当に申し訳ない。現状は全て大人たちの責任なのでこれは言いたくなかったのだが、究極のアイデアとして、受験生に団結してもらって、一斉に”All you can talk about is money and fairy tales of unrealistic English language education reform. How dare you!”みたいなグレタさん的意見を吹き込んでもらうというのがある。いま私が高校生だったら,それぐらい怒って,結局そんな勇気も組織力もないし,経済的理由で大学受験を諦めざるを得なくなるのだろうけど。

現実に起きそうなことは以前の記事で指摘した通りで,仮に大混乱の末,WritingとSpeakingのスコアが揃わない受験生が続出して,大学側の判断でそれを選抜には使わないという決断を下したとしても,文科大臣に精度向上期間を担保された試験実施段階は特に痛まず,各家庭から莫大な受験費用が吸い上げられるという結果だけが残るわけだ。その時われわれは受験生やその保護者を直視できるのだろうか。

加えて,高校の先生方に嫌われそうなことを言うと,シンポの中でも少し触れられていたが,この時同時に,高校に蔓延する模試漬け文化や、その副教材ほんとに要るのか問題にも切り込むべきだと考えている。この問題については別の機会に詳しく論じることにしたい。

 

* 羽藤先生から、この表について「(中略)すでに文科省に要求してくださった方が複数いらっしゃいます。しかし(ありえないことですが)文科省は数字を把握していなかったとのこと。期限を切って,各試験団体に数字の提出を求める(いつものように外部からの質問を丸投げする)することになります。11/1(金)の共通ID発行開始までに各都道府県の受験可能者数が明らかになることはなさそうです。また,(ホラを吹けば後で自らの首を絞めることになりますが)それでも各試験団体がどこまで正確な数字を提出してくるかは不明です」との返信をいただいた。補足情報として追記しておく。