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「オンライン授業」、もう少し事態に即して正確に言えば在宅受講体制の整備に向けた周囲の混乱が控えめに言っても凄まじい。大学で言えば、教養科目の取りまとめや非常勤講師をサポートする先生がた、教務関係の人たちの負担は筆舌に尽くし難いものがある。

私自身も無縁ではもちろんないのだが、そうした立場にいないこともあるし、自分の授業についてさほど不安は感じていない。よく考えると、こういう状況になる前から、いろいろ「オンライン化」していた。役に立つ人がいるかどうかは分からないが、ひとつの事例というか考え方としてまとめておく次第。

担当科目によっていくらか違いはあるが、昨年までは、

  • 配布・投影・その他の資料 → Google Drive
  • 感想 → Google Form(一部授業は紙媒体も継続)
  • レポート課題・パフォーマンス課題 → 学内LMS
  • 授業動画 → YouTube

という感じで授業をサポートしてきた。

それぞれのリンクを、このWebサイトの授業用ページに掲載する。ページにはパスワードをかけ、履修者には口頭で、あるいはLMSを通じて伝達する。例えば、昨年の「英語科教育法Ⅱ」の1回目は以下のように整理されている。


第1回(4月16日): イントロダクション

(動画略)

  • Small Talkに対するコメント:
    • (略)
  • 授業動画:

(動画略)


この授業の場合、順番に、授業のopeningとclosingのsmall talkの担当がまわって来る。リフレクション・シートにGoogle FormのQRコードが印刷されていて、そこに入力された感想が、担当した学生へのフィードバックとして、名前を出さない形でここに掲載される。

この回は初回だったので、TAの院生がデモンストレーションとして行ったsmall talkの動画を載せているが、第2回以降は、後で振り返ることができるように学生のパフォーマンス動画が載る。「授業動画」にはそれ以外の部分が収められている。動画はビデオカメラと三脚で教室後方から撮影したもの。

この記事の意図は、私が、最初からこの形を計画して授業を始めたわけでもなければ、この形が理想の姿と考えているわけでもないと伝えることにある。

誰かにやらされているわけでは勿論ないし、他の大半の人はここまでのことはやっていないので、こうしたオンライン化をしていなかったとしても授業は十分成り立つ(少なくとも昨年度までは)。しかし、上記は全て、必要性に駆られて至ったものなのだ。

例えば、次のようなことである。

授業に欠席者がいる。次の回の授業で、あるいはメールで、研究室に訪問してきて学生が配布資料を求める。やや簡略化したが、資料をもらうためにアポを取るメールが来て、それに返信し、また返信が来て…日程が決まり、研究室に訪問してきて配布資料を渡すみたいなこと(手順としては正しいけども)を、配布資料を渡すためだけに繰り返すのはかなりしんどい。しかも私の今の環境の場合、ほとんどの学生が同じ時期に行く教育実習だけでなく、学生によって時期がバラバラな介護等体験や部活の大会、フィールドワークなどでの公欠もちょくちょく発生するから、なんとなれば学期の全てを通じて欠席への対応に終始追われることになる。

さらに言えば、研究室に印刷した資料の余りを置いておくと部屋をメッスィにする要因になる(から受講人数分しか印刷しないし、終わり次第処分する)し、持ち物がごちゃごちゃするので、授業に持っていくのはできればその回の資料だけにしたい。

大学には使い勝手の悪いLMS (Learning Management System)があって、それを通じた連絡に資料を添付することもできるのだが、毎回、あるいは学生ごとに連絡を送るのは面倒極まりない。また連絡は他の連絡に埋もれて行ってしまうので、結局学生から(もう一度連絡送ってもらえますかといった)メールが来るか、学生が配布資料を入手することを諦めてしまいかねない。ファイル共有場所も用意されているのだが、学生がもっとも活発に課題に取り組むこともある深夜時間帯にLMSが停止しているので(それでも昔よりは少しだけ改善したのだが)、「ちょっと前回の資料見て欲しいんですけど、え前回の資料持ってない?アップしておいたけど」「ダウンロードしようとしたんですけど、学務情報システムにアクセスできなくて…」みたいな悲しいやり取りが発生することになってしまう。

これをどうにかしたい、というのが必要性。で、今のところGoogle Driveで解決を図っているわけだが、自分の思考を簡略化して整理すると、Problem-Solutionというより、以下の図のように考えている。

ここまで欠席者への対応に文句ばかり書き連ねているように見えるが、私がしたいのは「欠席者(や資料を失くした者)に配布資料が確実に届くこと」である。それは、要望する学生がいるからだし、入手可能な環境を整えずして、以降の授業でそれを参照することは、あるいは試験に向けて参照を要求することはできないと私が思うからだ。

この動機・目的(motives)を厳密に考えた場合、Google Driveにファイルを置いてリンクを貼ったからと言って、欠席者の全員がダウンロードして授業に臨むとは限らないことはすぐにわかる。つまり、「すいません、ダウンロードして見ておくの忘れました」は防げない。しかし、そしてここがこの記事のポイントの一つだが、動機・目的を100%完璧に満たすことは初めから志向していない。

講義資料には履修者の情報が含まれることもあるし、感想を載せているので、授業外に公開にはしたくない。私とTAと履修者だけが、いつでも、PCからでもスマホからでも、学内でも学外でもアクセスできるようにすること。これが満たすべき必要条件(requirements)である。使用教室にはWi-Fiがろくに届いていないので、例えば学内ネットワークからしかアクセスできないようなページ上ではダメだ。さらに、上述の通り使い勝手の悪いLMSの停止時間問題を含め、障害となる要因(hindrance)に対応して選択肢を絞る。

そもそも(最初は学内サーバーを借りて)このサイトをWordpressで整えたのは、こうしたブログ記事と授業用のサイト、業績情報等々を一元化したかった(複数管理・更新するのが面倒だった)からである。そしてWordpressであれば、固定ページや投稿にパスワードを設定することができる(パスワードを授業時に履修者だけに伝えればrequirementsを満たす)。ただしWordpress内にアップできるファイルの容量やサーバー容量には制限があるので、資料をここに直接置くことはできない。それでGoogle Driveで吐き出したリンクを貼るという最終的な解決策(resolutions)が選ばれた、というわけである。

判断の過程で、技術的・現実的に細かいことは挙げれば色々ある。ちょうどGmailが容量を圧迫していたため、有料プランに切り替えてGoogle Driveの容量を増やしたタイミングだったこと。DropboxとGoogle Driveの学生側から見た操作性の差。等々。だからGoogle Driveに絶対のこだわりがあるわけではない。例えば、作成した資料をdropboxに保存すると、紐付いた場所にコピーが自動で作成され(dropbox上のファイルを移動したり削除したりしてもコピーは消えず、しかし更新すると更新も反映され)たり、Google Form的な機能があってQRコードを自動で吐き出してくれるようなアプリがあれば、すぐ乗り換える。

YouTubeを利用するのも同様で、限定公開でのアップロードが可能で、サイトへの埋め込みが簡単で、容量を気にしなくていいからに過ぎない。かつてはFacebookに授業ごとにグループページを作りそこに動画をアップしていたが、学生がFacebookを利用しなくなったし、古い投稿が埋もれてしまうので遡って視聴する際に不便である(今はいくらか解決したが、長い時間の動画がアップできないという問題もあった)。模擬授業についてはレポート課題提出時に人数分DVDを焼いて渡していた時期もあったが、DVDプレイヤーやドライブを持たない学生もいて活用に難があり、メモリアルの役目(それはそれで悪くもないが)としてもコストや時間が嵩み過ぎると思われた。

そうまでして学生が動画を視聴できるようにしたい理由は、自らの英語使用や模擬授業の振り返りの質を高めたいということである。全体に向かって、あるいはグループ内で発表している時、あるいは模擬授業を行っている時、本人たちはタスクをこなすことに必死であり、自己を客観視できていることは稀だ。模擬授業を振り返ってレポートを書く際、記憶のみに頼って書いてもろくなレポートは期待できないし、前半のほうになると思い出すのもしんどいだろう。ここで動機・目的(motives)に再び立ち戻るわけだ。

解決策はそれを完璧に満たすものである必要はないが、必要条件と障害しか考えていないと「ため」の策になってしまう危険性がある。もちろん必要条件を満たしていないと妥当性が低く、障害をクリアしていないと実行可能性が低くなる。

翻って問いたいのは、在宅受講体制の整備に際してZoom等を用いることが本当に最適解なのかということである。もっと言えば動画を撮影して配信することも、だ。それは必要条件を考えた時の解決策の一つではあるが、検討すべき障害が多数あることは多くの人が承知しているところで、それ以上に私は動機・目的のところがクリアになっているかどうかが気になるわけだ。

そして今のところ明らかなのは、授業の内容や規模によって当然それは異なるだろうということだ。私が担当する20〜40人程度の演習・講義と、80人や100人を超える講義とでは受講者とのインタラクションの質も量も異なるし、語学の授業と専門科目とでも色々違う。知識や経験が異なればできることも。だからこそ、様々な授業者を前に、担当者がいま直面している壮絶な状況に同情を禁じ得ない。

少なくとも私は、在宅で受講可能にしなければならないという制約の影響が小さいとはもちろん言わないが、自分の担当する授業に関わるmotivesは明確であり、必要条件・障害を考慮してZoomが最適解と判断されれば使うに過ぎない。事前事後に資料を読んでもらったり、事前事後に課題を提出してもらって、それに対してコメントやフィードバックを返したり、他にも取り得る手段の引き出しは様々にある(そうしたやり方をわざわざ「反転授業」や「PBL」などと呼ぶ必要も感じない)。実のところ、欠席者が後で見る用、あるいは復習のために繰り返し観たいという要望に応え、昨年度の(科目によっては数年分の)担当授業はほぼ全て撮ってあるので、手抜きをすればそれを流すだけでも何とかならないこともないのだ(しないけど)。

要は知識と経験のなせるワザで、英語の授業半期5種類7コマ(だったか)を準備しなければならなかった常勤1年目であれば泣いていただろうし、今だって自分の専門外の授業については相談されても役に立てる自信はない。ならぬものはならぬのだから、みんな倒れない程度にやりましょうと思うばかりである。

一般論としては、某研修などで話すこととして、flow/stockとsynchronous/asynchronousを区別するとmotivesとresolutionsがいくらか整理しやすくなると思うのだが、長くなったのでそれはまた別の機会に要望があれば書くとしよう。