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[雑感092] ワクチン接種について

[雑感092] ワクチン接種について

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ワクチン接種について。

TwitterでもFacebookでも、知り合いが次々とワクチン接種を宣言し、その後の体調変化についても「研究者」よろしく逐一報告していたりする。しかし、何の意味があるのかよく分からない。

周りに向けて、ワクチンについて現在報告されている効果の限りにおいて、「私は重症化リスクが下がりましたよ、みなさん安心してください」と知らせる役目はあるかもしれない。それ自体はいいことだ。近しい人にとってはいくらかでも安心する知らせだろう。

しかし、仕組みとして高齢者から優先して接種を進めたわけだし、多くの自治体が世代を区切って上の方から予約を開始しているのだから、極端に言えば「私は高齢者〜中高年です」と宣言しているに過ぎない。というより、そういう優先順位の付け方で、希望する人には全員行き届く約束のはずなのだから、自治体や政府が責任を持って「予定の接種(の何割)を完了した」という報告を粛々とすべきであって、個々人がSNSで点呼などしなくてよい(もはやそういうお祭り騒ぎのアノミー的心情なのかもしれないが)。騒ぐべきとすれば、その約束が果たされていない場合だろう(現に果たされていないことだらけだ。だから、自治体間での差に触れたり、自治体・組織でこういう段取りがついた、などと報告したりするのは理解できる)。

体調の変化については、「こういう副反応が出ましたよ、用心してくださいね」という実況の機能は多少ある。しかし、医療従事者でもあるまいし、具合の悪さやしんどさはどこまで行ってもそれぞれの主観的経験でしかなく、体温の変化を聞いたって、はあそうですかと思う他ない。個人の趣味での自由研究的記録を否定はしないけど、朝顔の成長記録じゃあるまいし、研究者として貢献したいなら然るべき手段とルートでデータを収集・提供すればよい、と思う。

どうしてそういうことを述べ立てるかといえば、多くの人は未だ接種できていない現状があるからだ。8月10日時点で、国内で1回以上接種した人の割合は47.9%で依然5割に満たない。必要回数の接種が完了した人に至っては35.8%という。世界的に見ればわずか15.8%だ。先ほどの「私は高齢者〜中高年です」に当てはまらないとすれば、少なくとも現状では、地域であれ職域であれ、何らかの形で優遇を受ける環境にいたということになる。この、われは蜘蛛の糸を掴んだど!というような特権階級自慢が、自覚的であれ無自覚的であれ、とても嫌だ。

人口の少ない地域で早めに接種できたことが「特権」かどうかは微妙なところとしても、都市部ではWebページでの予約が半ば争奪戦になっている状況もあると聞く。先日、大阪で乗ったタクシーの運転手は「一番手や二番手ぐらいの大手なら別でしょうけど、私らなんかに届くのはいつになることやら…」と嘆いていた。運転席をカバーするシートや消毒セットなどに対しても手当てはなく、日々リスクと隣り合わせで自衛を続けているわけだ。大学教員のリスクなどどうでもよいと言うつもりはないが、もともと相対的に感染リスクの低い環境を享受できている人たちの接種完了報告を良い気持ちで聞く人ばかりではない、ということにも思いを馳せておきたい(そんな人たちのことは知ったことではないという分断の実態を示しているのかもしれないが)。

何より、ワクチンを接種できない人もいれば(少なくとも現状では)したくない人もいる。接種するかしないか、もっと言えば自らの身体の処し方は本来、個人の選択の自由に属す問題で、なるべく多くの人が重症化リスクを下げて、通常の医療体制を維持し、仮に感染したとしても重篤化を防げるようにしておくことが肝要という話だ。だから、こんなものは、済ませるにしてもそれぞれがひっそり済ませて、誰が打っていて誰が打っていないかなんて分からない状態のほうがいい(上述の通り、匿名化された集団の状況さえ共有されればよい)、と思うのは私だけだろうか。

それは、早晩ワクチン接種がさまざまな場面での踏み絵にされそうだという懸念にもよる。現に、某研修について直前に「先生、ワクチンは接種されましたでしょうか?」と訊かれる若干不愉快な経験をした(当然ながら研修参加に際して、あるいはそれがなかったとしても日々感染対策に努め、検温によるチェックもしているのに)。ワクチンを打てば感染しない・させないということではないのだからそもそもピントがズレているようにも思うが、接種が済んだ人からこういう発想や行動が増えて、まだ打っていない人や様々な事情で打てない人が生きにくい社会になるのは本当にやめてほしい。

だいたい、ワクチンであれ通院や入院であれ、自分の健康や病に関わる話なんて個人情報の最たるもので、安易に他人に言うようなことじゃなくない?と思うのだが、私の感覚がズレてるのだろう。このまま最後までズレていたいし、この話題が、1日も早く、以前のインフルエンザ・ワクチンと同じぐらいの話題にされかた・みなされ方になって欲しいと思うが、もうそういう日々は戻ってこないのかもしれない。

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