レビュー
[本101] 広瀬『子どもに学ぶ言葉の認知科学』

[本101] 広瀬『子どもに学ぶ言葉の認知科学』

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著者の前著『ちいさい言語学者の冒険』に比べるとインパクトは落ちるが、全体として、面白い例を豊富に散りばめた「言葉の認知科学」の良い入門書だと言える。「子どもに学ぶ」の部分はあくまで話のマクラにとどまる部分が多いものの、「文理解と曖昧性」や「語用論」の章はいかにもお子さんの成長に伴う話でおもしろく読んだ。会話の公理を二等辺三角形と正三角形で説明しているのはなるほどと感心した(尺度含意にコンパクトに触れているのも良い)。

ゼミでお土産のお菓子が余り、その数より欲しい人の方が多くなると、「どすこい」というゲームで分配するのが恒例となっている。いわゆる「いっせーので」や「指スマ」の変種で、「どすこい、『〇』」の合図で参加者が立てた親指の数と同じ音数で、〇で始まる言葉を早く言って、どすこいのかけ声を言った者が勝ちとなるゲームである。分配に際して私がこのゲームを提案したわけでもなく、その様子をただ見守っているのだが、この時、要請されているのが文字数なのか拍数(あるいは音節数)なのかは今に至るまで曖昧なままで、促音や拗音がカウントされるのかされないのかでたびたび回答者が戸惑ったり審議になったりする。例えば「どすこい、『き』」で、5本の指が上がっていた場合、「救急車」はOKなのか「協働」はNGなのかといった具合。促音の「っ」は1音で処理されるのに、「き・よ・う・ど・う」とはせず「きょ」で1と処理することに戸惑っているゼミ生がいたが、彼はじゃんけんグリコの「チ・ヨ・コ・レ・イ・ト」が念頭にあったのかもしれない。といった話が本書で詳しく解説されていて、イタリア語話者やフランス語話者との比較研究の話が面白い。

今年2月に大津先生が講演で連濁の話をしてくれた際に、変わり種として私が「バラン」の例を出した。おかず同士がくっつかないようにと弁当に入っている緑のアレだ。あれは庭で見かける植物の葉蘭(はらん)がもとで、「人工葉蘭」が生まれた際に濁ることになったが、普及して「人工」が取れても連濁が残ったという次第のものだ。講演の際はこの例でいくらかの「へー」を学生からゲットしたが、後で、同じ話の例なら「インスタ映え」からの「映え(る)」のほうが圧倒的に分かりやすいことに気づいて反省した。「バラン」の場合、アレを何というかというくだりを挟まなければならないので、ワンステップ余計なのだ。この「映え」の話も本書に登場する(『言語研究の世界』にも出てくるけど)。

「子どもに学ぶ」の部分では受動態の文や鏡像関係の話が興味深かったが、それ以外の著者が採集した例でも「ニンジンはヤギ・ヒツジも食べてくれるよ♪」などは秀逸だ。私自身は川添さんの『言語学バーリ・トゥード』のほうを好むが、味わうのに特定の世代や文化の知識は要請されない分、本書のほうが学生たちには読みやすいだろう。広く薦めたい。

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