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[レビュー051] 小橋『若い英語教師のための教材研究入門』

[レビュー051] 小橋『若い英語教師のための教材研究入門』

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こういう本が求められる状況は理解するし、大修館書店『英語教育』誌にはいつものごとく、「英語教師を目指す学生や若い英語教師だけでなく、多くの関係者に一読を勧めたい」とか「自らの授業について多くを気づかせてくれる良書である」などと愚にもつかない「書評」が載るのだろうが、少なくとも私は薦めたいとは思わない。「授業」らしい形式は整えやすくしてくれるだろうし、体制に順応してやっていくためには役に立つのかもしれない(その意味で初任研副読本みたいなものと思えばいいのかもしれない)が、生徒にとって楽しい授業になりそうな感じが伝わってこないからだ。私とは「実践的」の解釈が違うようだ。

教育方法学的な観点で批判しておくと、(1)「教材研究」の定義をしっかりしているつもりでも、「教材」が所与のものとなっており、教育内容が問う視点が希薄、(2)根岸先生の「外国語習得の大まかなプロセス」に依拠しているという段階論がPPPの焼き直しに過ぎない(習得論と授業論の混同)、(3)質問と発問の無意味な分類(「子どもの思考・認識過程」と称した雑な指導論)、といった具合で、四半世紀前にも目にして苛立ったような話が繰り返される。英語教育の議論はいつまでこういうことを繰り返すのだろうと暗澹たる気持ちになるが、業界に身を置く自分にも責任はあるわけだ。

英語教育界隈は「批判(的思考)」に不慣れなので、こういう書き方をすると「亘理(相変わらず)ボロカスに言うな、ヒドイな」と受け取られるかもしれないが、それなりに評価しているから批判するのだということに留意されたい(取り上げる価値もないと感じる本もたくさんあるが、時間とエネルギーの無駄なので、関わる学生や先生に実害が危惧されるのでもない限りそういう本や論文にはそもそも言及しない)。実際、指導の実際として挙げられている内容は悪いわけでもない。私自身、かつて本書と同様にReading powerなどを教材とする実践報告を書いたことがあるし、「テクストの構造」などは大学や高校で使用されるテキストではずいぶん一般的になったような話だ。中高で誠実に良い授業をされていた先生なのだろうと思う。

ただ、「若い英語教師」に必要なのは本当にこういう話をこういう形で伝えることだろうか?むしろ、頭でっかちな「教材研究」を携えて臨んだ(ほとんどの場合思った通りには進まない)授業で、実際に生徒たちは何をしているのか、教材や教師からの問いかけに対する具体的な生徒のあらわれ一つひとつをどう捉えることができるか、教師はその場で、あるいは次の授業でどういう反応を返し得るかといったことではないのだろうか。もちろん「新学習指導要領に向けて授業づくり」をすることがそれと相反するわけではないが、学生や若い先生にいったいどっちを向いて授業して欲しいの?と思ってしまう。問うべきは生徒の何をどう見てる?ということであって、伝えるべきはその難しさやあてどなさとどう向き合ってきたかということではないのか。その「生徒」とて、生まれ育ってきた世界は絶えず更新され、かつての感覚が通じる保証はない。

(私ももうどちらかと言えばそちらの側だが)古い世代が打倒されるべき存在だとすれば、学生や若い先生方が、乗り越えるべき壁として批判的に読むのは有りかもしれない。だが未来がつかむべき「藁」ではない。さあ、「そんなことはない!」とさらなる(単なる感情論ではない)批判を与えてくれる元気は業界にあるだろうか。

5 thoughts on “[レビュー051] 小橋『若い英語教師のための教材研究入門』

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      突然のメール、失礼いたします。鳥取県立鳥取西高等学校で英語教員をしています松田裕史と申します。いつもブログを拝見させていただいています。英語教育、あるいはそれを超えて教育学の視点から様々な示唆、知見を紹介してくださり大変勉強になります。ありがとうございます。先生の書評を読む前に『英語独習法』を読んでいましたが、売れ行きや称賛される状況とは裏腹に何か違和感を感じていました。先生の書評を読んでわが意を得たりの思いでした。また、TEACHERモデルにも共感いたします。これは私が授業論として依拠している松下佳代(京都大学)のディープアクティブラーニングに親和性があると感じた次第です。今回、『若い教師のための教材研究入門』の書評を載せていらっしゃいましたが、これについてもちょうど読んでいる最中でした。生徒が外面的にではなく、思考・判断の面でアクティブになるのかどうか納得感があまりありませんでした。先生の書評を読ませていただきなるほどと思いました。まだ読了していませんでしたが、残りのページは乗り越えられるべきものとして読もうと思います。4技能5領域の中でも一般的にはSpeaking(Speech, Interaction), Writingのアウトプットに焦点が当たっている昨今ですが、私はむしろReading, Listeningの指導こそ、今後ますます重要になってくると思います。しかし、アウトプット系に比べ意外と指導法は進展していないと感じます。そこでご教示お願いしたいことがあるのですが、Readingの指導について読んでおくべき文献を教えていただけないでしょうか。邦書、洋書は問いません。お忙しいところ恐縮ですが、お時間のご都合かつかれる時に教えていただければと思います。どんな教員かもお知らせせずご教示していただくのも失礼ですので、私の現在地を簡単に紹介させていただきます。『若い教師のための教材研究入門』を買いましたが、私は決して若手ではありません。教諭になって16年目の44歳でそれなりに経験もあります。鳥取県で指導的立場にあたるエキスパート教員をしており、昨年、第69回読売教育賞「外国語・異文化理解」で最優秀賞を受賞させていただいておりますが、教科指導力に自信があるわけではありません。長文メールになり申し訳ありません。今後ともよろしくお願いいたします。

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        コメントありがとうございます。私自身が最も多くを学んだのは、
        ・天満 美智子 (1989).『英文読解のストラテジー』大修館書店. https://amzn.to/3cp0jQV
        ほか、天満先生の著作や津田塾大学言語文化研究所読解研究グループの文献です。
        その内容とズレない具体的な教材の一つとして、Jeffries, L.とMikulecky, B.のReading Powerシリーズは悪くないと思います。先生はとっくに不要かなと思いますが。

        それ以外となると、演繹的に適用できる確たる指針があるというよりは、優れた教材の構造や一つひとつの問いから工夫を汲み出していくしかないような気もしてはいるものの、依然として和書よりは
        ・Nuttall, C. (2005). Teaching reading skills (New Ed.). Macmillan Education. https://amzn.to/2TDz7ay
        ・Grabe, W., & Stoller, F. L. (2019). Teaching and researching: reading (3rd Ed.). Routledge. https://amzn.to/2TLpNlc
        といった文献から得られる知見のほうが多いように思います。

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          詳細に返信していただきありがとうございます。参考文献もご教示いただきありがとうございました。どうしても演繹的に何かないかと思いがちですが、そうではなくて優れた実践からエッセンスを抽出しながらそれを実践に反映していきたいと思います。文学批評でも演繹的な分析が中心になっているものは確かに無味乾燥な感じがします。国語教育の方が読みに関しても一日の長があり示唆するところが多々ありますが、そもそも英語ネイティブの研究者は母語の英語での読みをどう捉えているかが気になっているところでした。お忙しいところ本当にありがとうございました。

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            お役に立てていれば幸いです。おっしゃる通り、国語教育から学べるところは大いにあると思います。あるいは、解釈の面で言えば、英語教育でも
            ・小林真大 (2021).『「感想文」から「文学批評」へ: 高校・大学から始める批評入門』小鳥遊書房. https://amzn.to/3veu7X3
            といった辺りの枠組みが一つ共有されていると、教材の文章の評価の議論を一歩も二歩も進められるかなと思って、私自身は、
            ・Macken-Horarik, M.,‎ Love, K., Sandiford, C., &‎ Unsworth, L. (2017). Functional grammatics: Re-conceptualizing knowledge about language and image for school English. Routledge. https://amzn.to/3ge5UMn
            などから文法指導論を拡充したいと考えているところです。

            TEACHERモデルについても評価していただきありがとうございます。院生時代から学会等で松下さんの話を聞き文献を読んで育ってきたので、何がしかの影響が滲み出ているかもしれません。鳥取はずいぶん以前に学会で行ったきり縁がなく過ごしておりますが、授業を観たり授業について話したりする機会があればぜひお声がけいただければと思います。

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              『「感想文」から「文学批評」へ: 高校・大学から始める批評入門』は未読ですが、かなり気になっていた本です。これを機に目を通してみたいと思います。松下さんは『ディープ・アクティブラーニング』で国語教育にも言及されていますが、そこで紹介されている国語の授業モデルともTEACHERモデルは親和性があります。広島の胡子先生も同じような考え方をされています。鳥取といえば鳥取出身の安木真一先生をご存じでしょうか。安木先生から亘理先生のことを聞き及んだことがありますが、30代、40代の研究者の中では最も注目すべき研究者だと評されていました。安木先生とは10数年前、鳥取西高校で席をならべて同学年を指導していたことがあります。数年前から科研のスローラーナー研究にも参加させていただき、現在も研究は継続中です。区切りとして昨年、DVDを出版しました( 高校英語・スローラーナー支援のための実践的指導法と教材開発~「つまずき」を克服するための授業と教材について~【DVD3枚組】 (japanlaim.co.jp) )。
               今後ともよろしくお願いいたします。

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