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[本067] 大橋(編)『EBPMの経済学』

[本067] 大橋(編)『EBPMの経済学』

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さすがに「課税政策におけるEBPM」や「電力政策におけるEBPM」の章を読み込んではいないものの、全体として勉強になった。

主には「教育政策におけるEBPM: データベースの構築によるエビデンスの蓄積と活用」の章を読むために手にした文献だが、総説の「日本の評価制度の最大の問題点は、政策形成の最後の段階においてしか評価が義務づけられていないこと」(p. 34)という指摘は、先日読んだ西出(2020)を重ねて大きく頷く。「政策形成プロセスの中に政策評価を位置づけて、初期評価、中間評価、最終評価といったように、節目節目で評価を行って、ステークホルダー達や外部の研究者達との対話を積み重ねるようにすることが必要である。エビデンス構築はそのプロセスの中で行われ、ステークホルダー達からのエビデンス提供や専門家達の批判や新しい手法等の提案によって、エビデンスが強化されていくことになる」(p. 35)という提言は尤もだ。ここでは「エビデンス」が幅広く、「記述的な調査研究、パフォーマンス指標、財務及びコストのデータ、調査統計、行政記録データといったもの」(p. 3)も含んで把握されていることも付け加えておく。

本書のもう一つ興味深い点は、各章に行政担当者側からのコメントの章が付されていることだ。総説へのコメントは総務省行政評価局課長の越尾氏で、各府省へのEBPMの思考の浸透・定着が難題だとして、「EBPMについて解説された論文や本において、RCT(ランダム化比較試験)などの因果推論の方法や、その適用の在り方などが論じられているものは多くある。しかし、現在の中央省庁においては、その前提として政策の論理、つまりは『政策の設計図』とはどのように考えるべきかという土台がきちんとできていないのが偽らざる現状」(p. 44)と述べていたり、「職員の『無謬性』のドグマ」(p. 57)を指摘している辺りが面白い。さらに、thinking outside the boxの例として、「例えば、ICTの活用についての研修を教員に行い、教員の指導力を高め、その生徒のICT能力を高めるというロジックで教員研修事業の必要性を説明するというものがあるとすると」と、教育を例にしているところも。

「教育政策におけるEBPM」の章もイギリスやアメリカの例が基礎的な整理として役に立つし、それに照らした現状の日本の課題の指摘も尤も。「先進的」事例の紹介も参考になる(戸田市の話は知っていたが、箕面市の件は知らなかった)。それ以上に、文科省の樫原氏によるこの章に対するコメントがしっかりしていて感心した(と言っては失礼だが)。

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