レビュー
[本073] 北村『批評の教室』

[本073] 北村『批評の教室』

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発表や執筆の山場を超えて、箸休めの読みもの。

映画や小説の批評に興味がなくても、文章がものすごく上手い(北海道方言で言えば読まさる)ので、その点だけでも一読を勧めたい。

それは、ロゴス(論理)が明快であるのはもちろん、パトス(共感)に関わる表現選択と配置の巧みさが大きいと思う。

時々、誰かがRTして北村さんのツイートが流れてくると「どうしてそんなに怒っているんだろう?」と思って前後を辿らないと事情がわからないことがあるのだが、こうやってまとまった形で文章を読むと、淀みなく効果的に毒が差し込まれていて読んでいてとても心地よい。

例えば「最初にイギリスのバンドであるポリスの有名な歌『見つめていたい』の冒頭を引用しましたが、これはストーカーの恋心をそれにはそぐわないキャッチーなメロディにのせて歌う、とても不気味な作品です」(p. 19)といったように、随所で結構強い言葉を使っている(「ポリスの『見つめていたい』は、とても不気味な作品です」と切り出せば表現の強さがよく分かるだろう)。しかし、読んでいてドギツさを感じることはない。まさに「ハチのように書く」である。

端的で合理的な説明を重ねるだけでは乾いた印象になる。読み手になるほどな思わせる(エートス)のは重要だが、それだけでも印象には残らない。そこで言い過ぎず言わな過ぎず、パトスのコントロールによって強弱を使い分ける。批評の視点、批評について語る視点が明確で、価値判断のピントが常に的確なのだろう。

「書く」の章を読んでいたら「入門ゼミ」の授業で紹介すべき文献のようが気がしてきて、箸休めの読みものではなくなってしまった。読むと賢くなった気にもなるし、本書を通じて取り上げられている映画や小説に手を伸ばしてくれても嬉しいし、予算で人数分買っても良いかもしれない。買わなくても文学のほうに進む学生は自ずと出会うかな。どの程度の経験を持った状態で読むのが良いのかというのはこういう本についていつも悩むところではあるけれど。

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